イシュ・チェル
イシュチェル|イシュ・チェル|イシュチェール|チャク・チェル|Chak Chel|Ix Chel|Ixchel|虹の女神|神O|神I
マヤ神話の女神。月・水・出産・医療・織物を司り、若い乙女と老いた産婆の二つの相をもつ。コスメル島は名高い巡礼の聖地であった。
解説
概要
イシュ・チェル(Ixchel、「虹の女神」の意とされる)は、マヤ神話における女神で、月・水・出産・医療・織物を司る。産婆と薬草使い、機織りの女たちの守護神であり、ユカタンやグアテマラの女性たちは、豊穣と安産、治癒を願って彼女のもとへ巡礼した。
神話・物語
「イシュ・チェル」という名は、16世紀のスペイン側の記録に現れる呼称である。近代の図像研究は、この女神像に二つの相を区別する。若い月と機織り・出産の女神(神I)と、水と洪水・医療を司る老いた女神チャク・チェル(シェルハス分類の神O)である。今日ひろく知られる「月の女神イシュ・チェル」の像は、この両者を重ねた後世の理解を含んでおり、彼女を単なる月神とみなすことには研究者から慎重論も出されている。配偶者については、太陽神キニチ・アハウとする伝えと、創造神イツァムナーとする伝えがあり、後者では二神のあいだに13人の子が生まれたとされる。
図像と象徴
若い相のイシュ・チェルは、月を表す兎を伴い、腰機(こしばた)で布を織る乙女として描かれる。織り出される糸は、へその緒と胎盤、すなわち生命の糸を象徴する。対して老いた相のチャク・チェルは、ドレスデン絵文書などで、瓶から水を大地に注ぐ姿で表される。これは洪水として解される。頭に蛇を戴き、両手両足は鉤爪となり、交差した骨を織り込んだ裳をまとう、畏怖すべき姿である。創造と破壊、生命の水と滅ぼす洪水とを、一つの女性像のうちに併せもつ。
系譜と関係
イシュ・チェルは四方の雨神チャクや地下水を司る老神バカブと密接に結びつく。カリブ海に浮かぶコスメル島には彼女の神託所が置かれ、先コロンブス期のアメリカでも有数の巡礼地となった。スペイン人は、近隣の島にイシュ・チェルの女性像が多いのを見て、その島を「女の島(イスラ・ムヘーレス)」と名づけた。
文化的足跡
コスメル島への「聖なる旅」は現代に再現され、女性たちの守護神としての記憶は今も生きている。医療と出産の女神として、イシュ・チェルはマヤのパンテオンで最も力ある女神の一柱に数えられる。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。