ヘリシェフ
ヘルシェフ · ハルサペス · アルサペス
ヘラクレオポリスを中心に祀られた古い牡羊の神で、名は「自らの湖の上にある者」。原初の水から生まれた創造神とされ、ラー・オシリスと同一視された。ギリシア人はヘーラクレースと同一視し、都市名の由来となった。
解説
概要
ヘリシェフ(ḥrj-š=f / Heryshaf)は、中部エジプトのヘラクレオポリス(エジプト名ヘネン・ネスウト)を本拠とする古代エジプトの牡羊の神である。名は「自らの湖の上にある者」を意味し、ギリシア語ではハルサペス、アルサペスと写された。
神話・物語
ヘラクレオポリスは第一中間期に第9・第10王朝の都となり、ヘリシェフはその時代、王家の奉じる主神の位置にあった。原初の水から現れた創造神とされ、地元の神学では上下エジプトを統べる王として二重冠を戴く。
新王国以降、ヘリシェフは太陽神ラーと冥界の王オシリスの双方の「バー」(顕現)とされた。エジプト語で牡羊と魂バーがともに bꜣ と綴られることが、この結びつきを支えている。オシリスの死と再生をめぐる祭祀はヘラクレオポリスでも盛んで、町はオシリスの聖地の一つに数えられた。
ギリシア人はヘリシェフをヘーラクレースと同一視し、都市をヘラクレオポリス(ヘーラクレースの町)と呼んだ。名の後半を「力」を表す語と読み替えたことが、この同一視の手がかりになったとする見方がある。
図像と象徴
水平に張り出した波打つ角をもつ牡羊の頭の男として表され、アテフ冠や日輪を戴く。この角は、古い時代のエジプトに見られた家畜羊の品種の特徴で、アメンに結びつく下向きに巻いた角とは形が違う。ヘラクレオポリスの神殿跡からは、金で覆われた小さなヘリシェフ像(第三中間期)が出土している。
系譜と関係
牡羊の神にはほかに、エレファンティネのクヌム、メンデスのバネブジェデト、テーベのアメンがいる。いずれもバーの観念と結びつくが、ヘリシェフはとりわけラーとオシリスをつなぐ位置に置かれた。
文化的足跡
ヘラクレオポリス(現イフナシヤ・アル=マディーナ)の発掘は19世紀末のナヴィル、20世紀初めのペトリーに始まり、1960年代以降のスペイン隊の調査で神殿と墓地の実態が明らかになってきた。