ゴバンヌス
コバンヌス · ゴバンノス · ゴバノ
ガリアの鍛冶神。碑文には「神コバンヌス」の形で現れ、ベルンの亜鉛板と青銅像がその名を伝える。
解説
概要
ゴバンヌス(Gobannus、ガリア語形ゴバンノス)は、ガロ=ローマ期に崇拝された鍛冶の神である。碑文にはしばしばコバンヌス(Cobannus)の綴りで現れる。
名はケルト祖語の語幹 *goben-(鍛冶)に由来し、アイルランドのゴヴニュ、ウェールズのゴヴァノンと同じ語根から作られている。ケルト語圏の三つの地域に、同じ語幹の鍛冶神の名が並ぶことになる。古典の著述家はこの名を記しておらず、証拠は碑文と像に限られる。
神話・物語
物語は伝わらない。この神を知る手がかりは三つある。
第一に、1970年代にヨンヌ県フォントネー=プレ=ヴェズレーで見つかった石碑である。AVG(VSTO) SAC(RVM) [DE]O COBANNO——皇帝の神威と神コバンヌスに捧ぐ——と読める。奉献者は名を記した個人で、アヴァロン美術館に収められている。
第二に、1980年代末に出土した青銅像の一群である。神コバンヌスに捧げられた青銅の大釜とともに見つかり、アメリカへ渡って現在はゲッティ美術館の所蔵となっている。ただしこの一群は出土地と出土状況の記録を欠いたまま国外へ出たもので、考古学的な文脈が失われている点は留意を要する。
第三が、最も雄弁な資料であるベルンの亜鉛板(ゴバンヌス板)である。1984年、ベルン近郊トルメンボーデンの森でガロ=ローマ期の文脈から見つかった金属板で、ギリシア文字によるガリア語の銘が刻まれている。
ΔΟΒΝΟΡΗΔΟ ΓΟΒΑΝΟ ΒΡΕΝΟΔΩΡ ΝΑΝΤΑΡΩΡ
ゴバノは与格で、この神を指す。ブレノドルは地名、ナンタロルはアーレ川の谷を指すとみられる(第一要素の nanto- は「谷」で、ナントスウェルタの名にも現れる)。ドブノレドは神の添え名で、dubno-(世界)と rēdo-(旅、あるいは戦車)の合成とすれば「世界を巡る者」ほどの意になる。全体で「ナンタロル谷のブレノドゥロンの人々より、世界を巡る者ゴバンヌスへ」と読まれている。
図像と象徴
主画像はゲッティ美術館蔵の「マールス=コバンヌス」の青銅立像である。2世紀、高さ七十六センチ。ローマ風の甲冑をまとった軍神の姿をとっており、鍛冶の道具は持たない。インテルプレタティオ・ロマーナによってマールスと重ねられた相を表す作例であり、この神が土着の名を保ちながらローマの神の姿を借りたことを示す。ただし前述のとおり出土状況は確認されていない。
象徴として際立つのは、亜鉛板そのものである。亜鉛と通称されるが、実際には鉛と鉄を含む合金で、銅・錫・カドミウムの痕跡も検出されている。亜鉛は鉱石を製錬する際に炉の壁に凝結する金属で、ストラボンはこれをプセウドアルギュロス(偽の銀)と呼んだ。1546年にゲオルク・アグリコラが再発見するまで、通常は無価値として捨てられていたとみられる。鍛冶の神への奉献板が、炉から掻き取られたその残滓で作られていた可能性は高い。物としての奉献品が、そのまま神の職能を語っている例である。
系譜と関係
ゴヴニュ、ゴヴァノンと同源にあたる。三者を結ぶ goben- の語幹は、印欧祖語まで遡れるかどうかで議論がある。ラテン語のファベル(職人)と結ぶ説があるが、後者は別の語根から導かれるのが通例である。パトリツィア・デ・ベルナルド・ステンペルは印欧祖語 g(h)eubh-(曲げる)に遡らせ、青銅が打って曲げる金属であることに結びつけた。ヴァーツラフ・ブラジェクはリトアニアの火の女神ガビヤとの関連を示唆する。
同じ語幹はガリアの人名にも広く現れる。カエサル『ガリア戦記』が記すアルウェルニ族のゴバンニティオ——ウェルキンゲトリクスの叔父——がその一例である。地名では、ローマ期のゴバンニウム(現在のアバガヴェニー)、フランスのサン=ゴバンが知られる。
文化的足跡
この神が残したのは、神話ではなく物である。銘を刻んだ石、甲冑姿の青銅像、そして炉の残滓から作られたかもしれない金属板。物語を持たない大陸ケルトの神々のなかでも、奉献品の材質そのものが職能を語る例は珍しい。サン=ゴバンの地名は17世紀に王立ガラス工場が置かれてサン=ゴバン社の名となり、ケルト語の「鍛冶」に遡る語根が今日の企業名として残る結果になった。