ファーマ
ファマ · Fama
ローマの名声と噂の擬人神。『アエネーイス』では無数の羽毛の下に眼と舌と耳を持ち、真実と虚偽を等しく語る怪物として描かれる。オウィディウスは扉のない青銅の館を描いた。近世には喇叭を吹く翼の女として表された。
解説
概要
ファーマ(Fama)は、ローマ神話における名声と噂の擬人神である。ギリシアのペーメー——ホメーロスではオッサ——に対応する。両女神は名声の両面性を表した。その好意を得た者は名声と称賛を受け、その怒りの対象となった者は醜聞と噂に悩まされた。
神話・物語
ファーマの最も名高い描写は、ウェルギリウス『アエネーイス』第4巻にある。ディードーとアエネーアースが洞窟で結ばれたのち、ファーマがリビュアの町々を駆け巡る。「ファーマより速い禍はない。動くことで力を得、進むことで力を増す」——大地が神々への怒りから産んだ最後の子で、無数の羽毛を持ち、その羽毛の下にそれぞれ眼と舌と口と耳がある。夜は天と地のあいだを飛び、昼は屋根の上に坐して都市を怯えさせる。真実と虚偽を等しく語る。
オウィディウス『変身物語』第12巻は、トロイア戦争の始まりを語る前に、ファーマの館を描く。世界の中心の高い場所にあり、青銅の館には無数の入口があって扉がなく、あらゆる声が集まって反響する。館には軽信、誤り、空しい喜び、恐れ、扇動、囁きが住む。噂が真偽の区別なく増幅されて世界に広がるさまを、建物の姿で表したものである。
図像と象徴
本サイトの主画像は、ドレスデン美術大学の円蓋の頂に立つファーマ像(ローベルト・ヘンツェ作、19世紀末)である。
近世以降、ファーマは翼を持ち喇叭を吹く女として表される。喇叭は名声を告げるものであり、二本の喇叭——大小、あるいは金と黒——を持つ姿は、良い名声と悪い噂の双方を表す。
無数の眼と舌と耳という古代の造形と、喇叭を吹く近世の造形は大きく異なる。前者は噂の怪物性を、後者は名声の栄光を表している。
関わる神格・伝承
ギリシアのペーメーに対応する。ペーメーはアテーナイに祭壇をもっていたとパウサニアース(1.17.1)が伝えるが、ローマでファーマに祭祀が行われた記録は乏しく、もっぱら詩のなかで造形された擬人神である。
文化的足跡
ラテン語 fama は、英語の fame、フランス語の fameux などの語源である。チョーサーの『名声の館』(14世紀後半)は、オウィディウスの描いた館を下敷きに、気まぐれに名声と悪評を振り分ける女神の宮殿を夢物語として描いた。喇叭を吹くファーマの像は、近世以降ヨーロッパの宮殿・劇場・アカデミーの屋根に数多く置かれた。