フトダマ
フトダマ · 布刀玉命 · 太玉命
岩戸隠れで天児屋命とともに太占を行い榊を捧げ持ち、天孫降臨で五伴緒として随伴した神。忌部氏の祖神で、『古語拾遺』は中臣氏に対抗して忌部氏の側からその功績を強調した。
解説
概要
フトダマは、日本神話に登場する神。『古事記』では布刀玉命、『日本書紀』では太玉命、『古語拾遺』では天太玉命の別名も存在する。忌部氏(のちに斎部氏)の祖の一柱とされる。
出自は『記紀』には書かれていないが、『古語拾遺』などでは高皇産霊尊の子と記されている。
神話での記述
岩戸隠れの際、思兼神が考えた天照大神を岩戸から出すための策で良いかどうかを占うため、天児屋命とともに太占を行った。
そして八尺瓊勾玉や八咫鏡などを下げた天の香山の五百箇真賢木を捧げ持ち、天照大神が岩戸から顔をのぞかせると、天児屋命とともにその前に鏡を差し出した。
天孫降臨の際には、瓊瓊杵尊に従って天降るよう命じられ、五伴緒の一人として随伴した。『日本書紀』の一書では、天児屋命とともに天照大神を祀る神殿の守護神になるよう命じられたとも書かれている。
『古語拾遺』における位置
岩戸隠れにおいて『記紀』では太玉命よりも天児屋命のほうが重要な役割をしている。斎部氏の斎部広成が書いた『古語拾遺』(807年)では、逆にフトダマのほうが中心的な役割を担っている。
『古語拾遺』は、中臣氏が祭祀を独占し忌部氏が排除されつつあった状況で、忌部氏の側から書かれた書である。祖神フトダマの功績を強調することで、氏族の祭祀上の権利を主張している。神話の記述が、氏族間の争いの道具になった例である。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、能楽百番の版画に描かれた布刀玉命である(1923年)。
榊を捧げ持つ姿が定型である。神事において榊に幣を付けて捧げるのは、この神の行為を原型とする。
祭祀の道具を作り捧げる神という位置が、この神を規定する。忌部氏は祭祀に用いる幣帛、玉、鏡、矛、盾などを製作する氏族であり、フトダマはその職掌の投影である。
関わる神格・伝承
天児屋命と対をなす。五伴緒の一。忌部氏の祖神。
忌部氏の分派が各地に置かれ、阿波忌部(麻・木綿)、讃岐忌部(矛・盾)、紀伊忌部(材木)、出雲忌部(玉)、筑紫・伊勢忌部(鉄)がそれぞれの祭具を貢納した。
文化的足跡
安房神社(千葉県館山市)は天太玉命を主祭神とし、阿波忌部が房総に移住したという伝承を持つ。
なお神道は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。