エルリク
エルリク · エルリグ · エルリク・ハン
チュルク・モンゴルの死と冥界の神。創造の際に泥を口に隠したため、それが膨れて吐き出され山と沼になったという。欺きによって地下へ追われた。仏教の伝播とともにヤマ(閻魔)と同一視され「エルリク法王」と呼ばれる。
解説
概要
エルリク(エルリク・ハンとも)は、チュルクの人々の神話における死と冥界の神である。大地の深みに住み、死や疫病、悪しき霊をもたらして人を苦しめ、その魂を自らの国へ連れ去る。アルタイの創世神話では、大地を造るための泥を口に隠したことで山や沼が生まれ、その欺きのために地下へ追われたと語られる。のちにチベット仏教が広まると、仏教の閻魔と同じものとされた。
なお本サイトの分類では、モンゴル・シベリアの体系に含めて扱う。
口に隠した泥
アルタイの創世神話では、エルリクは創造の神ウルゲンの兄弟、あるいは助け手として登場する。エルリクは、大地を造るための泥を、始まりの水の底から取ってくるよう命じられた。ところがエルリクは、泥の一部を口のなかに隠した。大地が広がっていくと、口のなかの泥も膨れていき、エルリクはそれを吐き出さずにいられなくなった。吐き出された泥が、山や沼になったという。隠そうとしたことが、かえって大地の起伏を生み出したのである。この欺きのために、エルリクは地下へ追われた。
冥界の主
冥界は九つの層からなるとされ、エルリクには九人の息子と九人の娘がいて、それぞれが病や災いを司るという。エルリクは死者の魂を裁き、罰する。
シャーマンとの交渉
病は、魂が奪われた状態と考えられた。シャーマンは忘我の状態に入って冥界へ降り、エルリクと交渉して、奪われた病人の魂を取り戻そうとした。エルリクには馬が供物として捧げられた。悪の神でありながら、人々が交渉し、祀る相手でもあったのである。
閻魔と重なる
チベット仏教が広まると、エルリクは死者を裁く閻魔と同じものとされた。モンゴル語では、閻魔を「エルリク・ノムン・ハン」(エルリク法王)と呼ぶ。土地の冥界の神が、仏教の体系のなかに位置を得たのである。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、エルリク・ハンの法廷を描いた図である。
関わる神格・伝承
ウルゲンの兄弟であり、閻魔と同一視される。
文化的足跡
「エルリク」の名は、チュルク系の言葉を話す一部の地域で、今日も悪魔を指す言葉として使われている。
なおモンゴル・シベリアの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。