ゲセル
ゲセル · ゲサル · ゲサル・ハン
チベットに起源をもち、モンゴルやブリヤートにまで伝わる英雄叙事詩の主人公で、モンゴルではゲセルと呼ばれる。天から遣わされてリンの国の王となり、四方の魔王を討つ。語り部は夢や病を経て突然語れるようになるという。清代のモンゴルでは関帝と重ねられた。
解説
概要
ゲサル(モンゴルではゲセル)は、チベットに起源をもち、モンゴルやバイカル湖周辺のブリヤートにまで伝わる英雄叙事詩『ゲサル王伝』の主人公である。乱れた世を正すため天から遣わされ、リンの国の王となって四方の魔王を討ったと語られる。物語の英雄であると同時に、祀られる神でもある。モンゴル・シベリアの体系に含めて扱う。
叙事詩は今も語り部によって語り継がれ、現存する版を合わせると百万行を超えるともいわれる。いつ形づくられたかについては11〜12世紀ごろとする説があるが、口承で広がり、語られるたびに筋が加えられてきたため、確かなことはいえない。
神話・物語
ゲサルは、乱れた世を正すために天から遣わされ、チベット東部のリンの国に生まれて王となった。北、東、南、西の魔王を次々に討ち、奪われた妻ドゥクモを取り戻す。モンゴルではゲセル・ハンとして語られ、地域ごとに異なる筋をもつ。ブリヤートの版には、シャーマニズムの要素が色濃い。
チベットのゲサルの語り部の多くは、師について学んだのではなく、夢や病を経て、ある日突然語れるようになったとされる。語っているあいだ語り部は忘我の状態にあり、物語は神から授けられるものと考えられた。文字を知らない語り部が数万行を暗誦した例も記録されている。
信仰
清の時代、清朝がモンゴルに関帝(関羽)への信仰を広めると、土地の英雄ゲセルは関帝と重ね合わされた。
図像と象徴
チベットの壁画やタンカでは、兜をいただき、旗や弓矢を携えて、赤い馬キャン・ゴ・カルカルにまたがる騎馬の姿で描かれる。本サイトが掲げるのは、チベットの無名の画家によるゲサル王の壁画で、アンドレアス・グルシュケが撮影したものである。
系譜と関係
チベット、モンゴル、ブリヤートに伝わり、清代のモンゴルでは関帝と重ね合わされた。
文化的足跡
『ゲサル王伝』は2009年にユネスコの無形文化遺産に登録された。中国では国家による保護の対象となる一方で、語りの内容をめぐる政治的な緊張もある。
なおモンゴル・シベリアの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。