アウズ
アウズル · アウド · ウン
夜の女神ノートとナグルファリの子。散文のエッダに一度言及されるのみ。名は「富」とも「死」とも読め、父を死者の船の擬人化とみるかで解釈が分かれる。
解説
概要
アウズ(古ノルド語 Auðr)は、北欧神話の人物である。夜の女神ノートと夫ナグルファリのあいだに生まれた息子である。
『ギュルヴィたぶらかし』第10章に一度言及されるのみで、それ以上のことは伝わらない。
神話・物語
伝えられる事績はない。ノートの三人の夫それぞれとのあいだの子を列挙する箇所に、その名が現れるだけである。
古ノルド語のアウズには三通りの原義があるとされる。
一つは「荒れ果てた」「空虚な」。二つ目は「富」「所有物」。三つ目は「運命」「死」である。通常は二番目の意味、すなわち「富」と解される。
しかし父ナグルファリを、ラグナロクの際に死者の爪で造られる船ナグルファルの擬人化とみる立場からは、別の読みが導かれる。この場合アウズの名は三番目の意味に取られ、「夜の闇と死者の船のあいだに生まれた死」と解釈されることになる。
図像と象徴
図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
名の多義が、この人物のすべてである。富とも死とも読めるという事実が、そのまま解釈の分岐を生んでいる。北欧の神名において、語義の選択が神格の性格を決めてしまう例といえる。
関わる神格・伝承
母はノート、父はナグルファリ。異父の兄弟姉妹にヨルズ(父はアンナル)とダグ(父はデリング)がいる。
なお、古ノルド語・アイスランド語のアウズ(現代綴りアウズル)は女性の人名としても広く用いられ、アイスランドの入植者アウズ・イン・ジュープーザガをはじめ、同名の人物が多い。本項が扱うのは神話上の男性の人物である。
文化的足跡
日本語圏でこの名が挙げられることはまずない。ノートの子を列挙する文脈で、ヨルズとダグの傍らに置かれる程度である。
それでも記録に残っているのは、夜から何が生まれるかという系譜が、北欧の宇宙観の一部だからである。死(あるいは富)、大地、昼——三つの子の並びが、夜という始まりから世界が展開する筋を示している。