アクタイオーン
アクタイオン · Aktaion · Actaeon
カドモスの孫にあたる狩人。アルテミスの水浴を目にして鹿に変えられ、自らの猟犬に食い殺された。
解説
概要
アクタイオーン(Ἀκταίων / Aktaiōn)は、アポローンの子アリスタイオスと、カドモスの娘アウトノエーの子である。ケンタウロスのケイローンに育てられて狩猟の術を身につけた。
アルテミスの怒りを買って鹿に変えられ、自ら育てた五十匹の猟犬に食い殺される。狩る者が狩られる者に変わるという反転が、この物語のすべてである。
神話・物語
キタイローン山のガルガピアーの谷で狩りをしていた彼は、犬を休ませる水を探して洞窟に入った。そこは女神に捧げられた聖域で、奥の泉でアルテミスが従者たちと水を浴びていた。裸身を見られた女神は、それを言いふらせぬよう彼を鹿に変える。水面に映った自分の姿に驚いた彼が声を上げても、口から出るのはうめきだけであった。狂わされた猟犬たちに追われ、彼は自分の犬に食い殺される。
罪の有無は資料で割れる。オウィディウス『変身物語』は、これを運命のいたずらであって彼に非はなかったと明言する。一方ヒュギーヌスは、女神の裸身を見て犯そうとしたためとする。さらに、狩りの腕を誇って女神を軽んじたためとする説、叔母セメレーを娶ろうとしてゼウスと争ったためとする説もある。同じ死に方に対して、まったく違う理由が四通り用意されている。
死後の話も伝わる。主人を探してケイローンの洞窟まで来た猟犬たちのために、ケイローンは彼そっくりの像を作って慰めたという。また彼の亡霊がオルコメノスを苦しめたため、デルポイの神託に従って遺品を埋め、彼の像を鉄の鎖で岩に縛りつけたとされる。この像はパウサニアースの時代にも残り、毎年英雄として祀られていた。
キタイローン近くのプラタイアイには「アクタイオーンの寝床」と呼ばれる岩と、女神の水浴の泉と伝えられる場所があった。プルタルコスによれば、彼はプラタイアイを興した七人の英雄の一人でもあり、ペルシア戦争のプラタイアイの戦いでは、ギリシア軍が神託に従って彼ら七英雄に犠牲を捧げてから戦ったという。神話の被害者が、土地の守護英雄として実際に祀られていた。
図像と象徴
古代美術が好んだ主題である。前6世紀のセリヌンテのメトープにすでに現れ、以後、犬に襲われる場面が繰り返し描かれた。
図像には固有の解決がある。完全な鹿ではなく、人間の姿のまま頭に角を生やす、あるいは鹿の毛皮をかぶせられた姿として表されることが多い。変身の途中を一枚に収めるための工夫であり、キルケーの獣頭人身の男たちと同じ発想にあたる。
本ページの主画像は前400〜350年頃のアプリア赤絵式スキュポス(カールスルーエ、バーデン州立博物館)である。ローマ期にはポンペイの壁画や石棺に、近世以降はティツィアーノの《ディアーナとアクタイオーン》(1556〜59年)をはじめとする絵画に受け継がれた。
系譜と関係
父アリスタイオス、母アウトノエー。したがってカドモスの孫であり、ペンテウスとは従兄弟にあたる。二人が死んだ場所はいずれもキタイローンであり、しかもペンテウスの死は彼の死んだ場所で起きたと伝えられる。
祖父カドモスの家に降りかかった不幸の連鎖のうち、最も早く起きたのが彼の死である。母アウトノエーと父はこれを機にテーバイを去った。
文化的足跡
ティツィアーノの二作《ディアーナとアクタイオーン》《アクタイオーンの死》は、ルネサンス絵画のなかでもとりわけ多く論じられてきた作品である。見てはならないものを見る者という主題は、絵を見る行為そのものへの問いとして読まれてきた。
こいぬ座を彼の猟犬に結びつける伝承もある。狩人と犬の関係が、星座の名として残された例である。