ジェミナ
ジェミーナ · ゼミュナ
バルト(リトアニア)の大地の女神。名は「大地」に由来し、作物と万物の命を養う母なる女神。雷神ペルクナスの妻とされ、天の父と地の母の対をなす。死者を受け入れる大地でもあった。
解説
概要
バルト神話、とりわけリトアニアの大地の女神。その名は「大地(ジェメ)」に由来し、土そのものを神格化した母なる大地の女神である。作物を実らせ、人・獣・草木のすべての命を養う豊穣の女神であり、同時に、死者を胸に迎え入れる大地でもあった。生まれ出るものはみな大地から生じ、やがて大地へ還る——その循環を司る、慈しみ深い母神として崇められた。
神話・物語
ジェミナは、雷神ペルクナス、あるいは天の父神ディエヴァスの妻とされ、天の父と地の母という一対をなす。天から降る雨と雷が大地をはらませ、はじめて実りが生じると考えられたため、春最初の雷が鳴るまでは、畑を耕すことも種を蒔くことも許されなかった。人々は朝な夕なに、また婚礼や葬送といった人生の節目に大地へ口づけし、祭りのはじめには地に酒を注いでジェミナに捧げた。その崇拝は、農の営みと分かちがたく結びついた、日々の信仰であった。
図像と象徴
ジェミナは、特定の神像よりも、耕された大地そのもの、湧き出づる命そのものとして感じ取られた。その名が文献に初めて現れるのは1582年のヤン・ワシツキの記述で、のちにダウクシャ、クライン、プレトリウスらも書き留めている。プレトリウスは、婚礼や収穫などの折に家長が地に酒を注いでジェミナに祈る「ジェミネリャウティ」という儀礼を記録した。大地に注がれる酒、捧げられるパンや家畜、そして地に口づける所作こそが、目に見えぬこの女神への祈りのかたちであった。
系譜と関係
天の父神と地の母神という対において、ジェミナは地の側を担う。雷神ペルクナスの妻とする伝えが最も多いが、天の主神ディエヴァスの顕現プラアムジュスを夫とする伝えもある。命を与えると同時に、死者を受け入れて再び命へと転じさせる点で、豊穣と死の双方に関わる。ラトビアの大地の母ゼメス・マーテや、スラヴの母なる湿れる大地など、近隣の大地母神とも響き合う。
関わる神格・伝承
ラトビアでは、一本の茎から二つ出た穂を豊穣の神ユミスと呼んだ。
文化的足跡
ジェミナの信仰は、ヨーロッパで最も遅くまでキリスト教化に抵抗したバルトの地で、農村の暮らしのなかに深く根を張っていた。キリスト教化ののちは、その母なる性格が聖母マリアへの信仰に重ね合わされて生き延びた。今日では、リトアニアの文化的アイデンティティや現代のバルト土着信仰のなかで、大地への敬意を体現する女神として受け継がれている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。