イエマンジャ
イエマヤ · イエマヤー · イェモジャ
ヨルバ宗教の水の女神。西アフリカでは河川、とりわけオグン川を司る神々の長で、オリシャたちの母と崇められる。新大陸のディアスポラでは海の女神へと姿を変えた。
解説
概要
イエマンジャ(ヨルバ語 Yemọja)は、西アフリカのヨルバ人が奉じる水の女神で、オリシャの一柱である。名は「イェイェ・オモ・エジャ(Yeye Omo Eja)」、すなわち「その子らが魚である母」の約とされ、生命を育む水の母性を体現する。オリシャたちの母、ひいては人類の母とも崇められ、慈愛と強い庇護をもって「子ら」を包むと伝えられる。ヨルバランドでは主として河川を司る水神・海神であり、海そのものを領分とするのは別のオリシャ、オロクンである点は誤りやすい。
神話・物語
ヨルバの伝承では、イエマンジャは河川、とりわけナイジェリアを流れるオグン川を領分とし、オシュン、オバ、エリンレなど他の河の女神たちを束ねる長とされる。至高神オロドゥマレのもとで大地と人の創造に関わったとも、はじめから存在し万物が彼女から生まれたとも語られ、起源譚は一様でない。母性と豊穣(豊穣神)、出産と女性の守護に結びつき、その本拠はオグン州の州都アベオクタ、イバラ地区の聖所に置かれる。系譜もまた一定せず、伝承によってはオグンやシャンゴといった名高いオリシャを彼女の子に数える。
図像と象徴
西アフリカにおいてすら、イエマンジャはしばしば人魚の姿で表される。豊かな水をたたえた母の像として、青と白(あるいは水晶色)をまとい、貝殻や川石、鏡、扇を持物とする。本項の図版は、ナイジェリアのバダグリに立つイエマンジャ像で、西アフリカの土地に根を張った信仰の現在を伝える一例である。ブラジルやキューバでは、白い薔薇や船を象った供物、真珠や水晶の首飾りが捧げられ、その図像はいっそう海と結びついて、月光の下に佇む海の女王として描かれる。水そのものが象徴であり、川から海へと姿を変えるその可変性が、彼女の性格を規定している。
系譜と関係
「オリシャたちの母」という称号ゆえに、イエマンジャは多くの神格と母子・婚姻の関係で結ばれる。ただしその系図は伝承ごとに異なり、単一の家系に固定できない。鉄と戦のオグン、雷のシャンゴを子とする伝えはその一例である。新大陸では、大西洋奴隷貿易を経て習合が進み、カトリックの聖母マリアの諸姿——アフロキューバのレグラの聖母、ブラジルの航海者の聖母——と重ね合わされた。西アフリカのマミ・ワタなど、他のアフリカの水の霊ともしばしば比較される。
文化的足跡
ディアスポラにおいてイエマンジャの存在感はいっそう増した。ブラジルではイエマンジャ(Iemanjá)として、キューバではイエマヤ(Yemayá)として、アフリカ神話に発する信仰が海を渡って根づいた。ブラジルでは大晦日や2月2日に、信者が浜辺で小舟に願いを託して海へ流す祭が今日も盛大に営まれ、キューバでは9月7日、レグラの聖母の祝日にあわせて祝われる。水を敬い母性を寿ぐその祭祀は、現代の大衆文化や音楽にも幅広く影を落としている。