ヤリフ
ヤリフ · ヤラフム · Yarikh
ウガリットの月の神で、名は「月」を意味する。詩『ヤリフとニッカルの婚姻』は月神ハルハビの娘への求婚と花嫁料の交渉を語り、実際の婚礼で朗唱されたとみられる。神々の婚姻を語りながら人の婚姻を祝福する台本である。
解説
概要
ヤリフ(ヤラフム。ウガリット語で「月」)は、古代近東で崇拝された月の神である。
北シリアのアモリ人の都市ウガリットの資料に最もよく確認され、そこでは主要な神格の一柱であった。その主要な祭祀の中心は、おそらくエブラ近郊のさらに東に位置するラルガドゥであった。神話上の祭祀の中心はアビルマである。
アモリ人の住む他の地域、たとえばマリにも確認される。
なお本サイトの分類では、フェニキア/ウガリットの体系に含めて扱う。
ニッカルとの婚姻
ウガリットの詩『ヤリフとニッカルの婚姻』(KTU 1.24)が、この神の主要な神話である。
求婚。 ヤリフは、月神ハルハビの娘ニッカルに求婚した。
花嫁料。 銀と金、そして緑玉を花嫁料として支払うと申し出た。
父の躊躇。 ハルハビは他の候補を挙げて渋ったが、ヤリフは要求を繰り返した。
成立。 ついに婚姻が成り、花嫁料が量られた。
婚礼の詩。 この詩は、実際の婚礼で朗唱されたとみられる。末尾にコタラト——出産と婚姻の七女神——への祈願がある。
神話が儀礼の台本である。 神々の婚姻を語りながら、人の婚姻を祝福する。
月の暦
ウガリットの暦は太陰暦であり、月の観測が重要であった。
新月の儀礼。 新月の日に儀礼が行われた。
月食。 ウガリットから、月食の記録と、その凶兆としての解釈を記した文書が出土している。
名
「ヤリフ」は「月」を意味する普通名詞である。
神名と普通名詞。 天体の名がそのまま神の名である。エジプトのメツトリ、北欧のマーニと同じ構造である。
ヘブライ語の「ヤーレアハ」(月)と同語根である。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
関わる神格・伝承
妻はニッカル。エブラとマリでも崇拝された。
文化的足跡
『ヤリフとニッカルの婚姻』は、古代近東の婚礼の実態を知る資料として重視される。