ヴォルスング
ヴォルスングル · ヴォルシ · ウェルス
ヴォルスング一族の名祖。レリルの子で、ガウト王シッゲイルに殺された。子シグムンドと娘シグニューによって復讐される。
解説
概要
ヴォルスング(古ノルド語 Vǫlsungr、古英語 Wæls)は、ゲルマン神話の人物である。ヴォルスング一族——英雄シグルズを含む——の名祖にあたる。
北欧の伝承ではレリルの子であり、ガウトの王シッゲイルに殺された。のちに子シグムンドと、シッゲイルに嫁いだ娘シグニューによって復讐される。
神話・物語
その物語はヴォルスング詩群——一族をめぐる一連の伝説——に記録される。現存する最も古い版は中世アイスランドで記された。詩群の物語は、ヘルギ・フンディングスバニの伝承をはじめとする地方のスカンディナヴィアの民間伝承を取り込んで拡張され、『古エッダ』の叙事詩と、失われた詩の内容を保存する『ヴォルスンガ・サガ』の素材となった。
ヴォルスングは中高ドイツ語の叙事詩『ニーベルンゲンの歌』の主題にも関わり、古英語の叙事詩『ベーオウルフ』にも言及がある。
娘シグニューの婚礼の宴で、館を貫いて立つ生木バルンストックに、乞食の姿のオーディンが剣グラムを突き立てた。抜けたのはシグムンドだけである。剣を欲しがった婿シッゲイルは、三月ののちヴォルスング一家をガウトランドへ招き、そこで襲撃した。ヴォルスングは殺され、十人の息子は捕らえられる。
図像と象徴
図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
名の構成が、この人物の位置を示している。古英語のウェルシング(Wælsing)は、家系を示す接尾辞 -ing と、その祖の名ウェルス(Wæls)から成る。古ノルド語のヴォルスングも同じ接尾辞 -ung を持つ。このことから、より古い古ノルド語形はヴォルシ(Völsi)——ウェルスの同源語——であったとする説が提出されている。
ヴォルシという名は『ヴォルサの話』にも現れる。オーラーヴ王のサガに収められた短い物語で、馬の陽根を祀る家庭祭祀を扱う。この一致をどう解するかは論点の一つである。
つまりこの人物は、一族の名から逆算して立てられた祖である可能性がある。名祖が実在の記憶ではなく、家名の説明として作られるという型は、系譜文献にしばしば見られる。
系譜と関係
父はレリル、子はシグムンドとシグニュー、孫はシグルズ。
ヴォルスング一族の物語は、剣グラムを軸に三代を貫く。祖ヴォルスングの館に剣が突き立てられ、子シグムンドがこれを抜き、孫シグルズが鍛え直されたそれで竜を討つ。
文化的足跡
『ヴォルスンガ・サガ』は、13世紀のアイスランドで編まれた散文作品である。ワーグナー『ニーベルングの指環』の主要な典拠の一つであり、J・R・R・トールキンもこの詩群に基づく韻文作品『シグルズとグズルーンの伝説』を残した。
日本語圏では、一族の名は「ヴォルスンガ・サガ」という書名を通じて知られている。その名祖である人物そのものが語られる機会は少ない。