シグムンド
シグムンドル · シゲムンド · ジークムント
ヴォルスンガ・サガの英雄。バルンストックの木からオーディンの剣グラムを抜き、狼に変じた妖女の舌を噛み切って生き延びた。竜殺しシグルズの父にあたる。
解説
概要
シグムンド(古ノルド語 Sigmundr、古英語 Sigemund)は、ゲルマン神話の英雄である。その物語は『ヴォルスンガ・サガ』に語られる。
ヴォルスングとその妻フリョーズの子で、妹シグニューがいる。竜殺しシグルズの父として最もよく知られる。
神話・物語
シグニューはガウトランドの王シッゲイルに嫁いだ。婚礼の宴のさなか、オーディンが乞食の姿で現れ、ヴォルスングの館を貫いて立つ生木バルンストック(「子の幹」)に剣グラムを突き立てる。抜くことのできた者にこれを与えると告げて去った。抜けたのはシグムンドただ一人であった。
剣を欲しがったシッゲイルは買い取ろうとしたが拒まれる。三月ののち、彼はシグムンドと父ヴォルスング、そして九人の兄弟をガウトランドへ招いた。一行が着くと、ガウト人に襲われる。ヴォルスングは殺され、息子たちは捕らえられた。
シグニューは夫に、殺す代わりに枷に繋いでほしいと願う。シッゲイルは、殺す前に苦しめるべきだと考えてこれを容れた。そして変身する母を狼に変え、毎夜一人ずつ兄弟を食わせる。
シグニューは幾度も策を講じたが失敗し、ついにシグムンドだけが残った。九夜目、彼女は召使いにシグムンドの顔へ蜜を塗らせる。狼が来て蜜を舐め、舌を口に差し入れたところを、シグムンドはその舌を噛み切って殺した。こうして枷を逃れ、森に隠れる。
そののち、シグニューは姿を変えてシグムンドと交わり、シンフィヨトリを産んだ。父と子は狼の毛皮をまとって森に住み、ついにシッゲイルへの復讐を果たす。
シグムンドは晩年、オーディンの槍によって剣グラムを折られ、戦に敗れて死んだ。折れた剣は妻ヒョルディースに託され、のちに鍛え直されて子シグルズの手に渡る。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、アーサー・ラッカムの挿絵である(ワーグナー『ニーベルングの指環』1910年)。
剣が、この英雄を規定する。木から抜かれた剣によって物語が始まり、その剣が折られることで生涯が終わり、鍛え直された剣が次の世代へ渡る。一振りの武器が三代を貫いている。
木に刺さった剣を抜いた者が王となるという型は、後代のアーサー王伝説とも比較されてきた。ただし両者を結ぶ直接の証拠はない。
系譜と関係
父はヴォルスング、母はフリョーズ。妹はシグニュー、子はシンフィヨトリとシグルズ。
古英語詩『ベーオウルフ』にはシゲムンドの名が現れ、竜を殺した者として語られる。北欧の伝承ではその功が子シグルズに帰されるのに対し、古英語ではシグムンド自身が竜殺しである。伝承が枝分かれした痕跡として、しばしば論じられる。
文化的足跡
ワーグナー『ワルキューレ』の主人公ジークムントは、この人物に基づく。妹ジークリンデとの結びつきから英雄ジークフリートが生まれるという筋は、サガのシグニューとシンフィヨトリの挿話を組み替えたものである。
日本語圏では、シグルズ(ジークフリート)の物語が広く知られる一方、その父の生涯まで語られることは少ない。しかし剣グラムの来歴をたどれば、物語はこの人物から始まっている。