ビラコチャ
ウィラコチャ · ビラコーチャ · コン・ティキ・ビラコチャ
インカ神話の至高の創造神。ティティカカ湖から現れ、天地と日月・人類を造ったとされる。文明を教えて西方の海へ去り、いつか還ると約束したと伝えられる。
解説
概要
ビラコチャ(Wiraqucha)は、インカ神話における至高の創造神・主神である。インカ帝国が興る以前からアンデス高地で崇められ、15世紀に帝国の神々の列へ取り込まれた。天と地、日月と星辰、そして人類そのものを造った存在とされ、姿を消したのちも下位の神々を通じて世界を見守るとされた。その名は「湖」「泡」「海の脂」などと解され、単一の語義には定まらない。祈りはしばしば「おお、創造主よ」の呼びかけで始められたと伝わる。
神話・物語
主要な伝承では、原初の闇のなか、ティティカカ湖(異伝ではパカリタンボの洞窟)から現れて光をもたらしたという。フアン・デ・ベタンソスの記録によれば、まず巨人の種族を石から造ったが、これが意に沿わず、大洪水ウヌ・パチャクティで滅ぼし、改めて小さな石から現在の人類を造ったとされる。このくだりは各地に伝わる洪水神話の一類型である。創造を終えると諸国を巡り、農耕や技芸といった文明の術を教えて歩いた。ときに石を投げつけられるなど歓迎されないこともあったと伝わる。最後にエクアドルのマンタで太平洋を西へ渡り(異伝では筏で渡り)、いつか還ると約束して去ったという。
図像と象徴
先インカ期のアンデス美術では、ビラコチャは正面を向き、両手に杖状の物を持つ「杖神(スタッフ・ゴッド)」の姿で表される。ティワナクの「太陽の門」中央に刻まれた、放射状の頭飾りをもつ像が代表的な作例とされる。ベタンソスは、太陽を冠のように戴き、手には雷を握り、目からは雨となって涙を流す姿を伝えており、太陽神と嵐・風の神の属性が創造神の像に重ねられている。老いた髭の男が長衣をまとい杖をつく姿でも描かれ、髭は水の神の徴とされた。
系譜と関係
ビラコチャは他の神々の父とされ、太陽神インティや月の女神ママ・キリャは、彼の造ったもの、あるいはその子とされる。妻を海の女神ママ・コチャとする伝えもある。海岸部で崇拝された創造神パチャカマックとは、高地と海岸で呼び名を違えた同一の創造神ではないかとする議論が古くからあり(フランクリン・ピーズら)、年代記編者のあいだでも同一視と峻別が分かれる。
文化的足跡
ビラコチャの信仰は貴族層に篤く、政治的な危機のさいに祈られたという。クスコには彼に捧げる神殿があり、太陽神殿コリカンチャにも黄金の像が置かれていた。髭を生やし海の彼方から来て去ったという伝承は、征服期のスペイン人の到来と結び付けて語られることもあった。現代では『Fate』『女神転生』などの作品にも創造神として登場する。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。