パチャママ
ママ・パチャ · パチャ・ママ · マーマ・パチャ
アンデスで崇拝される母なる大地の女神。畑の実りと家畜の繁殖を司り、大地そのものを生きた母として敬う。今日まで篤く信仰が続く。
解説
概要
パチャママ(Pacha Mama)は、アンデスで崇拝される母なる大地の女神であり、インカ神話における豊穣神である。「パチャ」は大地・世界・時空を、「ママ」は母を意味する。畑の実りと家畜の繁殖を司り、人と大地の互酬的な関係の中心に置かれる。今日でもアンデス各地で篤く信仰され、大地そのものを生きた母として敬う対象である。
神話・物語
古典期の体系のなかでパチャママは、大地の豊穣を支える存在として、太陽神インティや月の女神ママ・キリャと並び置かれることが多い。作物を実らせる恵みの母である一方、怒れば地を揺らして地震を起こすともいわれ、その力は恵みと畏れの両面をもつ。年代記編者による整理では創造神ビラコチャの娘とされることもあるが、こうした系譜は征服後に体系化された面が大きく、地域ごとに異なる伝えが併存する。
図像と象徴
パチャママは特定の彫像よりも、大地・畑・山そのものとして観念されることが多く、古代の定型的な図像を持たない。17世紀初頭、先住民の年代記編者フアン・デ・サンタ・クルス・パチャクティ・ヤムキが描いたコリカンチャ祭壇の宇宙図には、日月や星々とともに「ママ・パチャ」が世界の構成要素として書き込まれており、アンデスの世界観におけるその位置を示す貴重な作例である。捧げ物には、コカの葉やチチャ(トウモロコシの酒)を大地に注ぎ、供物を埋める儀礼がともなう。
系譜と関係
配偶者は海岸部の創造神パチャカマック、あるいはインティとする伝えがある。子として日月の神を数える系譜もあるが、これらは資料により大きく揺れる。母なる大地という性格から、特定の神統に収まるというより、あらゆる生命を支える普遍的な力として語られる点に特徴がある。
文化的足跡
スペインによる征服とキリスト教化のなかで、パチャママへの信仰は聖母マリア崇敬と習合し、密かに、あるいは混淆した形で受け継がれた。8月1日は彼女に捧げる特別な日とされ、この日は大地を鋤かず、一年の実りに感謝する儀礼が行われる。近年は環境運動のなかで「母なる大地」の象徴として再び注目され、ボリビアやエクアドルの憲法は「大地の権利」を明文化している。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。