パチャママ
ママ・パチャ · パチャ・ママ · マーマ・パチャ
アンデスで崇拝される母なる大地の女神。名は「世界・時空・大地」と「母」の合成。恵み深いが、軽んじられると災いや地震をもたらすとされる。8月の儀礼チャリャでチチャやコカの葉を捧げる。征服後は聖母マリアと重ね合わされ、今日まで信仰が続く。
解説
概要
パチャママ(Pacha Mama)は、アンデスで崇拝される母なる大地の女神で、インカ神話の体系に含めて扱う。「パチャ」は世界・宇宙・時空・大地を、「ママ」は母を意味する。畑の実りと家畜の繁殖を司り、人と大地の互酬的な関係の中心に置かれる。今日でもアンデス各地で篤く信仰され、大地そのものを生きた母として敬う対象である。
神話・物語
パチャママは、ふだんは恵み深く惜しみなく与える母であるが、軽んじられ傷つけられると災いをもたらすとされ、地震を起こすともいわれる。創造神ビラコチャの娘とされることがあり、太陽神インティと月の女神ママ・キリャをその子とする伝えもある。系譜は地域や資料によって異なる。
図像と象徴
パチャママは特定の彫像よりも、大地・畑・山そのものとして観念されることが多く、古代の定型的な図像を持たない。本サイトが掲げるのは、先住民の年代記作者フアン・デ・サンタ・クルス・パチャクティ・ヤムキが1613年に描いた宇宙図で、クスコの太陽神殿コリカンチャにあった図をもとにしたとされる。日月や星々とともに「ママ・パチャ」が書き込まれている。
系譜と関係
配偶者は海岸部の創造神パチャカマック、あるいはインティとする伝えがある。子として日月の神を数える系譜もある。
大地のパチャママに対し、山の霊はアプと呼ばれる。アンデスの民間信仰では、パチャママと並んで、豊かさの神エケコが今日も祀られている。
文化的足跡
中心となる儀礼はチャリャ(パゴ)と呼ばれ、8月を通して、また多くの土地では毎月の第一金曜日に行われる。飲む前にチチャ(トウモロコシの酒)を少し大地に注ぎ、食物やコカの葉、たばこなどを捧げ、供物を埋める。スペインの征服後、パチャママは聖母マリア、とくにカンデラリアの聖母と重ね合わされた。
近年は環境運動のなかで「母なる大地」の象徴としても取り上げられ、エクアドルは2008年の憲法で「自然あるいはパチャママ」の権利を明記し、ボリビアも2010年に母なる大地の権利法を定めた。2019年には、アマゾン地域の司教会議に合わせてバチカンに置かれた、報道で「パチャママ」と呼ばれた木像が盗まれてテヴェレ川に投げ込まれ、教皇フランシスコが謝罪した。
なおアンデスの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。