ワルキューレ
ヴァルキリー · ヴァルキュリア · 戦乙女
北欧神話で戦場の生死を定める女性たち。古ノルド語で「戦死者を選ぶ者」を意味し、オーディンに仕え、選んだ戦死者をヴァルハラへと導く。
解説
概要
ワルキューレ(valkyrja / Valkyrie)は、北欧神話で戦場の生死を定める女性たちである。古ノルド語の名は「戦死者を選ぶ者」を意味し、その言葉どおり、誰が戦いに斃れるかを選び、選ばれた者を死後の世界へと導く。主神オーディンに仕える存在として知られる。
登場する伝承
ワルキューレの名は、「戦場の屍」を指すヴァルと、「選ぶ」を意味する動詞キョーサからなる。彼女たちは戦場の上を駆け、オーディンの意のままに斃れるべき者を定めるとされる。戦死者のうち半分は、彼女たちに導かれてオーディンの館ヴァルハラへ迎えられ、残る半分は女神フレイヤの野フォールクヴァングへ向かうと『エッダ』の一篇は伝える。ヴァルハラでは、終末の戦いラグナロクに備えて日々戦うエインヘリャル(選ばれた戦士たち)に、ワルキューレが蜜酒をふるまう。
『ニャールのサガ』に伝わる詩「ダラザルリョーズ」は、クロンターフの戦いを前に、十二人のワルキューレが人の腸を糸とし、生首を錘とする恐ろしい織機で戦士たちの運命を織りなす様を描く。名を与えられた者も多く、なかでもブリュンヒルドは名高い。選ぶべきでない戦士を死なせた咎でオーディンに眠らされ、炎の壁に囲まれて眠る彼女を、竜を退治した英雄シグルズが目覚めさせる——この物語はのちにワーグナーの楽劇へと受け継がれた。
図像と象徴
原典のワルキューレは、翼ある馬には乗らない。空駆ける有翼の馬はギリシアの発想であり、後世に紛れ込んだものである。古い伝承では、彼女たちはむしろ屍を漁る狼や鴉と結びつけられていた。ヴァイキング期の美術がとらえたのは、ヴァルハラに迎えた戦士に角杯を差し出す女性の姿で、ゴットランドの絵画石——本図に掲げたリルビェールスの石もそのひとつ——や小さな金属像に、その情景が刻まれている。甲冑をまとい馬を駆る勇壮な戦乙女の像は、19世紀ロマン主義以降に育ったものである。
関係する神格
ワルキューレはオーディンに仕え、戦死者の半ばを受けとる点で女神フレイヤと対をなす。フレイヤ自身がワルキューレの長と目され、「戦死者の女主人(ヴァルフレイヤ)」と呼ばれることもある。ブリュンヒルドやシグルーンのように、人間の英雄と恋に落ち、伝説の物語に踏み込んでゆく者もいる。
文化的足跡
ワーグナーの楽劇『ワルキューレ』、とりわけ「ワルキューレの騎行」によって、この戦乙女の像は世界に広く知られるようになった。今日の映画やゲームにもたびたび登場するが、翼や華美な意匠をまとった現代の造形は、原典の姿からは遠く隔たっている。
領分・別名
図版で辿る
アーサー・ラッカム『ラインの黄金とワルキューレ』挿絵(1910年)/WIKIMEDIA COMMONS、パブリックドメイン
図版はいずれもパブリックドメインまたは CC0。所蔵館・撮影者の表記は各図版のキャプションに従う。例: The Metropolitan Museum of Art, CC0/Wikimedia Commons のライセンス表記に準拠。