シグルーン
シグルン · シグルーン · スヴァーヴァ
英雄ヘルギ・フンディングスバニの妻となったワルキューレ。兄弟ダグに夫を殺され呪いをかけた。スヴァーヴァの生まれ変わりとされ、次の生ではカーラとなる。
解説
概要
シグルーン(古ノルド語 Sigrún、「勝利のルーン」)は、北欧神話のワルキューレである。
その物語は『古エッダ』の『ヘルギ・フンディングスバニの歌』第一および第二に語られる。原典の編者は、この人物をスヴァーヴァの生まれ変わりと注記した。
神話・物語
英雄ヘルギ・フンディングスバニが最初に出会ったとき、シグルーンは九人のワルキューレの一隊を率いていた。
二人は恋に落ちる。しかしシグルーンは、父ホグニが自分を王グランマルの子ホズブロッドに嫁がせると約束したことを告げた。ヘルギはグランマルの国に攻め入り、二人の仲を阻む者をことごとく討つ。生き残ったのはシグルーンの兄弟ダグただ一人で、ヘルギに忠誠を誓うことを条件に助命された。
しかしダグは、兄弟たちの仇を討つ名誉に縛られていた。オーディンに呼びかけると、神は槍を与える。フョトゥルンドという場所で、ダグはヘルギを殺し、姉のもとへ戻ってその行いを告げた。
シグルーンはダグに強い呪いをかけ、以後この兄弟は森で腐肉を食んで生きねばならなくなる。
ヘルギは塚に葬られたが、ヴァルハラから最後に一度だけ戻り、二人は一夜をともに過ごした。
シグルーンは悲しみのために早くに死ぬが、ワルキューレとして生まれ変わる。次の生ではカーラとなり、ヘルギはヘルギ・ハッディンギャスカティとして再び生まれる。その物語は『フロームンド・グリプスソンのサガ』に伝わる。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ローベルト・エンゲルスの挿絵《ヘルギ・フンディングスバニとシグルーン》(1919年)である。塚から戻ったヘルギをシグルーンが抱く場面を描く。
物語の骨格は、生まれ変わりの反復である。スヴァーヴァ、シグルーン、カーラ——同じ二人が三度生まれ、三度出会い、三度別れる。ヘルギ詩群に固有の構成であり、北欧の他の英雄譚には見られない。
塚から戻った死者と一夜を過ごすという場面も、北欧文学のなかで際立っている。恋人が死者としてなお戻りうるという設定は、後世のバラッドにも受け継がれた。
関わる神格・伝承
夫はヘルギ・フンディングスバニ、父はホグニ、兄弟はダグ。スヴァーヴァとカーラの生まれ変わりの系列に属する。
同じくワルキューレとされるブリュンヒルドも、エッダ詩においてシグルドリーヴァと同定される。ワルキューレが人間の女として生き、英雄と結ばれ、そして死ぬという型は、ヘルギ詩群とヴォルスング詩群に共通する。
文化的足跡
2018年のゲーム『ゴッド・オブ・ウォー』にワルキューレの女王として登場し、作中で最も難度の高い戦闘の一つとして知られるようになった。
日本語圏では、ワルキューレといえばブリュンヒルドの名が挙げられ、この人物まで紹介されることは少ない。しかし三度生まれ変わって同じ相手と出会うという構成は、北欧の英雄詩のなかで最も特異なものの一つである。