ウグラセーナ
アーフカの子 · マトゥラー王 · ヤーダヴァの長老
マトゥラーを治めたヤーダヴァの王でカンサの父。子に王位を奪われたが、クリシュナがカンサを討ったのちに復位している。
解説
概要
ウグラセーナ(Ugrasena / उग्रसेन)は、マトゥラーを治めたヤーダヴァの王である。アーフカの子で、カンサの父にあたる。子に王位を奪われて幽閉されたが、クリシュナがカンサを討ったのち復位した。ドヴァーラカーへ移ってのちもヤーダヴァの王位にあり、クリシュナ自身は王とならずに彼を立て続けたと語られる。
神話・物語
ヤーダヴァの一族を治めていた彼は、デーヴァキーの父デーヴァカとは兄弟にあたる。子カンサは強大な武力とマガダ王ジャラーサンダの後ろ盾を得て父を幽閉し、王位を奪った。『バーガヴァタ・プラーナ』は、カンサが血統の上では彼の子ではなく、妃パドマーヴァティーがアスラのドゥルミラに欺かれて宿した子であるとする。
クリシュナがマトゥラーの闘技場でカンサを討ったのち、彼は牢から解かれた。クリシュナは自ら王位に就くことをせず、彼を玉座へ戻す。孫にあたるはずの若者が祖父の世代を王として立てるという構図は、この英雄が終始「王を立てる者」として振る舞う点を示している。
ジャラーサンダが娘たちを寡婦にされた恨みからマトゥラーを繰り返し攻めたため、一族は西の海辺へ移ってドヴァーラカーの都を築いた。彼はそこでも王として遇され、ヤーダヴァの評議を主宰したと語られる。『マハーバーラタ』では、ユディシュティラの即位式に列席する諸王の一人としても名が挙がる。
図像と象徴
固有の像容は伝わっておらず、独立した礼拝像の伝統もない。図像に現れるとすれば、闘技場でカンサが討たれたのち玉座へ戻される場面である。象徴となるのは空位のまま保たれた玉座であり、クリシュナが力をもちながら王位を取らなかったことの証として機能する。
系譜と関係
父はアーフカ。兄弟にデーヴァカがあり、その娘がデーヴァキーである。子はカンサ(血統については異説あり)と、デーヴァキーの従兄弟にあたる者たち。したがってクリシュナから見れば、大伯父にあたる世代の長老である。
文化的足跡
彼を主役とする説話はほとんどなく、単独の信仰も伝わらない。それでも物語の構造においては重要な位置を占める。カンサの簒奪が正統な王を退けた出来事として提示されることによって、クリシュナの行為は私怨の報復ではなく秩序の回復として位置づけられるからである。
王位に就く力をもちながら年長者を立てるという振る舞いは、後代の王権論においてしばしば理想として引かれた。ドヴァーラカーの統治が単独の王ではなく評議によって行われたとする記述とあわせ、ヤーダヴァの政治形態をめぐる議論の材料ともなっている。