トゥクルカ
トゥクルチャ · tuχulχa
エトルリアの冥界の鬼神。蛇の髪と嘴を持ち、テーセウスの冥界訪問の場面に付き添う。確実な図像は一点しか知られていない。
解説
概要
トゥクルカ(エトルリア語 tuχulχa)は、エトルリア神話で冥界に属する鬼神である。尖った耳、蛇でできた髪、猛禽のような嘴を持つ。確実に同定できる図像はタルクィニアの「オルクスの墓」第二室の壁画一点にとどまり、この神について言えることの多くは、その一図から読み取られたものである。
神話・物語
壁画に描かれるのは、ギリシアの物語をエトルリア風に語り直した場面である。テーセウス(エトルリア語でテセ)とペイリトオスが冥界を訪れ、盤上遊戯に興じている。その傍らにトゥクルカが立つ。ギリシアの伝えでは、二人は冥界で椅子に縛りつけられて動けなくなる。エトルリアの画工は、その拘束を、監視役の鬼神が見守るなかでの果てしない遊戯として表したことになる。
これ以外に、この神をめぐる伝承は残っていない。名の意味も分かっていない。
図像と象徴
蛇の髪はゴルゴンの図像を思わせるが、ナンシー・デ・グラモンドは、その蛇に描き込まれた菱形の模様がヨーロッパクサリヘビのものだと指摘した。毒蛇であることが意図されている。
性別については議論がある。獣じみた顔の毛を髭と見て男性とする記述が長く行われてきたが、デ・グラモンドは、この存在が女の衣をまとい、肌が男性の標準である煉瓦色ではなく淡い桃色に塗られ、胸のふくらみさえ認められる点を挙げて、女性、あるいは性を持たない存在である可能性が高いと論じた。エメリーン・ヒル・リチャードソンらも女性説を採る。ただし着ているキトーンは男女ともに用いる衣で、カルンも同じものを着ており、衣だけで決めることはできない。一点の図像から性別を決めようとすること自体の難しさが、この論争には現れている。
系譜と関係
系譜は伝わらない。カルン、ウァント、クルスといった冥界の存在と同じ圏に属し、冥界の主アイタの配下と位置づけられる。カルンが死者を送り届ける役を担うのに対し、トゥクルカは冥界のなかで見張る役に置かれている。役割の分担がはっきりしている点は、エトルリアの冥界像の特徴である。
文化的足跡
一点の壁画しか残らないにもかかわらず、その異形は近代の視覚文化に取り込まれてきた。1972年のイタリア映画『L'etrusco uccide ancora』(英題 The Dead Are Alive)は、この壁画を連続殺人の見立てに用いている。エトルリアの冥界像が、そのまま怪奇の意匠として扱われた例である。