トロール
トロル · トロッル · トロルド
北欧の伝承に現れる存在。古ノルド語では魔的なものを広く指す語で、ヨトゥンと境が曖昧である。後の民間伝承で山と森の怪物という像が定まった。
解説
概要
トロール(troll)は、北欧の伝承に現れる存在である。古ノルド語の中性名詞トロル(troll, trǫll)は、鬼、悪霊、狼人間、巨人といった意味の幅を持ち、人に害をなす魔的なものを広く指した。中世以後のスカンディナヴィア民間伝承では、人里から離れた山や森に住み、キリスト教化されておらず、人にとって危険な存在という像が定着する。
語源は定まっていない。ウラジーミル・オレルは、ゲルマン祖語の中性名詞 trullan(「踏む、踏みつける」の意とされる)から発達した可能性を示す。ゲルマン祖語より前は不明である。古ノルド語の動詞 trylla(「魔法をかける、トロールに変える」)、中高ドイツ語の trüllen(「ひらひら動く」)は、同じ語根の派生動詞 trulljanan に遡る。中高ドイツ語の troll, trolle(「鬼」)は、オレルによれば古ノルド語からの借用である。
登場する物語
古ノルド語の文献において、トロルという語はスルス(þurs)と同じくヨトゥンに対して用いられ、資料全体に散らばって現れる。彼らは孤立した山や岩や洞に住み、父と娘、あるいは母と息子といった小さな家族単位で暮らし、人に対して助けとなることはまずない。
『詩語法』は、9世紀のスカルド、ブラギ・ボッダソンとある女トロルとの出会いを伝える。ある森を夕暮れに車で行くブラギに、女トロルが誰何し、その過程で自分自身を名乗る。ブラギもまた、優れたスカルドとしての自らを語り返す。用いられているのは韻文の応酬であり、この存在が単なる怪物ではなく、言葉を交わす相手として描かれていたことを示す。
用語の重なりは大きな問題である。ヨトゥン、トロル、スルス、リシ(risi)という四つの語は、いずれも様々な存在を指して用いられ、境界が判然としない。ロッテ・モッツは、これらがもともと四つの異なる階層——自然の主(ヨトゥン)、神話的な魔術者(トロル)、敵対的な怪物(スルス)、英雄的で宮廷的な存在(リシ、最も新しい層)——を指していたと論じた。これに対しアルマン・ヤコブソンは、この説を「説得力ある根拠をいっさい欠く」として批判する。彼が挙げるところでは、トロルという語はヨトゥンや山の住人、魔女、異常に強大または醜い人間、悪霊、幽霊、魔法の猪、異教の半神、悪魔、ベルセルクにまで用いられている。要するに、これは種族名ではなく性質を指す語であった。
中世以後のスカンディナヴィア民間伝承において、この存在ははじめて特定の類型として姿を定める。きわめて老い、非常に力が強く、しかし鈍重で愚かであり、人を食らい、日光に触れると石になる——そう語られる。一方で、とりたてて醜くもなく人間とほとんど変わらぬ姿で、ただ人里から遠く離れて住み、何らかの社会組織を持つ存在としても伝えられる。この点で、単独で現れるラーやネックとは異なる。
ジョン・リンドウによれば、彼らを分けるのはキリスト教徒でないことであり、出会う者が彼らを知らないことである。したがって、キリスト教社会とどれほどうまくやっていようと、トロールは最後には危険なのである。ベリタグニング(bergtagning、「山に取られること」=誘拐)や、農場や屋敷を占拠する振る舞いが繰り返し語られる。
図像と象徴
古代・中世を通じて図像は伝わらない。今日思い浮かべられる、鼻の大きな苔むした森の巨人という姿は、19世紀末から20世紀初頭の北欧ロマン主義——とりわけテオドール・キッテルセンとヨン・バウエル——の筆によって形づくられた。本サイトが掲げるのもバウエルが1915年に児童文集『小人とトロールのあいだで』に寄せた一枚である。中世の資料が描くのは、この姿ではない。
伝承の側で標識となるのは、石である。日光を浴びて石に変わるという性質から、特徴的な岩や巨石がトロールの成れの果て、あるいはトロールの投げたものとして説明されてきた。20世紀に入ってなお、特定の地形の由来がこう語られている。神話が風景の説明として機能するという点で、この存在はアイルランドのディンシェンハスと同じ役割を果たしている。
もう一つは、教会の鐘である。スカンディナヴィアの一部地域にトロールがいない理由は、鐘の音が絶えず鳴り響くためだと語られる。彼らは他の土地へ去ったが、抵抗もした——建設中の教会を壊し、完成した教会に岩を投げつけたという伝えが数多く残る。雷がトロールとヨトゥンを追い払うという民間信仰もあり、トールが巨人と戦う神であったことの遅い反映とみられている。現代のスカンディナヴィアに彼らがいないのは「落雷の正確さと効率のおかげ」だと説明されることさえある。
リンドウは、スウェーデン民間伝承のトロールを古英語詩『ベーオウルフ』のグレンデルと比較し、この詩がグレンデルの襲撃ではなく広間の浄化を強調するのと同じように、近代の民話もトロールが追い払われる瞬間に力点を置くと指摘する。
関わる神格・伝承
神々に敵対するヨトゥンと重ねて語られることが多く、巨人を討つトールはこの存在にとって天敵にあたる。地下のドヴェルグ、森の隠れ者フルドラとも境を接する。
スカンディナヴィア民間伝承では、塚や山に住む小さなトロールも伝わる。デンマークではトロルフォルク(「トロールの民」)、ビェルクトロルデ(「山トロール」)、ノルウェーではトロルフォルク、トゥッセルと呼ばれる。大きさは地域によって、小人ほどのものから山ほどのものまで幅がある。ノルウェーでは、大型のトロールとフルドレフォルク(「隠れた民」)に同種の話が語られながら、両者は区別される。オークニーとシェトランドで用いられる trow は、ノルウェーのフルドレフォルクによく似た存在を指し、語の共通の起源を示唆する。異教期の入植者がこの語を、崇拝すべきではなく敬して遠ざけるべき超自然的存在の総称として用い、のちに大型で脅威的なヨトゥン的存在に特化した——という筋である。
ジョン・アーノット・マカロックは、古ノルド語のヴェーッティルとトロールの関係を想定し、どちらも死者の霊に由来する観念ではないかと論じた。
文化的足跡
トロールは近代のファンタジーに欠かせない存在となった。トールキンの中つ国や、テーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の造形が古典的な例である。1950年代以降はトロール人形が玩具として流行し、そこから派生した映画作品もある。トーベ・ヤンソンの「ムーミントロール」も、名の上ではこの系譜に連なる。
なお、ネット上で挑発的な言動をとる者を指す「トロール」は、擬似餌を引いて魚を釣る漁法 trolling に由来する別語である。ただしこの怪異の像と重なって理解されるようになり、今日では両者を区別しない用法が一般化している。