古英語(アングロサクソン語)で書かれた3182行の頭韻詩。単一の写本、大英図書館所蔵のノーウェル写本(Cotton Vitellius A. xv)にのみ伝わり、筆写は西暦1000年前後とされる。成立年代は8世紀から11世紀初頭まで説が分かれ、決着していない。
イェーアト人の英雄ベーオウルフが、デンマーク王フロースガールの館ヘオロットを襲うグレンデルを素手で倒し、続いてその母を討ち、五十年後に故国で竜と相討ちになる——三つの戦いで構成される。舞台はスカンディナヴィアであり、キリスト教徒の詩人が異教期の英雄世界を描くという二重構造をとる。
1936年のJ・R・R・トールキンの講演「ベーオウルフ——怪物と批評家」は、この詩を歴史資料としてではなく文学として読むべきだと主張し、以後の研究の方向を変えた。1731年の火災で写本の縁が焼け、現在も損傷が進んでいる。