フルドラ
フルデル · フルドレ · スコグスロー
スカンディナヴィア民間伝承の森の女。人を惑わす美貌を持つが、牛か狐の尾と、樹の洞のようにうつろな背という人ならぬ徴を衣で隠している。
解説
概要
フルドラ(huldra)は、スカンディナヴィアの民間伝承に語られる森の女である。ノルウェー語のフルドラは「かの隠れた女」を指すが、伝承は一個体ではなく一つの種族を前提としている。スウェーデンではスコグスロー(「森のロー」)あるいはタッレマヤ(「松のマリア」)、サーミではウルダと呼ばれる。
名は「覆う」「隠す」を意味する語根に由来する。古ノルド語の女予言者フルド、そしてドイツのホルダと同じ存在に遡ると考えられている。北ゲルマン語圏で、中世に用いられていた「アールヴ」に代わって広まった語でもあり、エルフの項が示すとおり、この語彙交替そのものが超自然的存在の観念の移り変わりを映している。
中世の文献には現れない。『エッダ』にもサガにも、この名で呼ばれる存在はいない。近世以降の民俗資料に属する伝承である。
登場する物語
フルドラは、いくつもいる「ロー」(rå、「守り手、番人」)の一つである。水にはシューロー、あるいはハヴスフルー——のちに人魚と同一視された——がおり、洞窟や鉱山にはベルグスローがいて坑夫を苦しめた。それぞれの領域に、そこを領する女がいるという体系である。
姿は美しいと語られる。しかし人ならぬ徴を必ず一つ備えている。牛あるいは狐の尾、そして樹の洞をくり抜いたようにうつろな背である。彼女はこれを長い衣で注意深く隠している。伝承の眼目は、この隠された徴が露わになる瞬間にある。
男性形はフルドレカルという。地下に住む者たち——トゥッセルと総称される——とも近い関係にある。
人との関わりは、一方的な敵対ではない。炭焼きに対して彼女は親切であったと伝えられる。彼らが休むあいだ炭窯を見張ってくれるので、何かあれば起こしてくれると分かっている炭焼きたちは安心して眠ることができた。その代わりに、決められた場所に食べ物を置いておく。敬意をもって扱えば相応に報いる存在として、スウェーデンのネルケ地方の話などに語られている。
一方で、森で男を惑わし、連れ去る存在としての相も強い。ロー全般に共通する性格であり、危険と恵みの両面が同じ存在に同居している。ノルウェーの民話については、ペーテル・クリステン・アスビョルンセンとヨルゲン・モーの採集が基本の資料となる。
図像と象徴
中世の図像はない。この存在の視覚像は、19世紀末から20世紀初頭の北欧ロマン主義が作り上げたものである。本サイトが掲げるのはテオドール・キッテルセンが『トロルドスカブ』(クリスチャニア、1891〜92年)に寄せた《フルドラ》で、森を背にした若い女を描いている。同じ画家はトロールの図像も定めており、今日流通する北欧の森の怪異の像は、ほぼこの一人の筆に由来する。
象徴の中心は、隠すという行為そのものにある。名が「覆われた者」を意味し、衣が尾と背を覆い、彼女自身が「隠れた民」と呼ばれる。露わになるのは、人が彼女を人間だと思い込んだあと——たいていは背後に回ったとき——である。異界の存在が正面からは見分けられないという構造は、セルキーの皮やケルピーの水草にも通じる。
もう一つは、うつろな背である。牛の尾は家畜との連続を、樹の洞のような背は森そのものとの連続を示す。彼女は森の一部であって、森から切り離された人格ではない。「ロー」という語が領域の守り手を意味することと、これは対応している。
関わる神格・伝承
ノルウェーの伝承では、大型のトロールとフルドレフォルク(「隠れた民」)に同じような話が語られながら、両者は区別される。オークニーとシェトランドで用いられる trow は、ノルウェーのフルドレフォルクによく似た存在を指し、語の共通の起源を示唆する。異教期の入植者が troll を、崇拝すべきではなく敬して遠ざけるべき超自然的存在の総称として用い、のちに大型で脅威的なものに特化する一方、フルドレフォルクが小型のものを指すようになった——という見立てである。
地名にも名を残す。デンマークのユランには、前55年頃の湿地遺体「フルドレモースの女」で知られるフルドレモース(「フルドラの沼」)がある。ノルウェーにはフルデルヘイム(「フルドラの家」)、フルデルフーサン(「フルドラの家々」)。北サーミ語の地名にはウルッダイドヴァーリ(「フルドラの山」)、ウルッダシュヴァッギ(「フルドラの谷」)がある。後者の谷を見下ろす峰はハルディと呼ばれ、これはノルウェー語の「ロー」に相当する、特定の領域を領する精霊を指す語である。ゲルマン語圏とサーミ語圏で、同じ観念が別々の語彙で並んでいることになる。
文化的足跡
19世紀の民話採集と国民ロマン主義が、この存在をノルウェーの文化的象徴の一つに押し上げた。アスビョルンセンとモーの民話集、キッテルセンの挿絵、そして同時代の絵画がその中核をなす。今日、フロム鉄道のシューフォッセン駅では、滝を背にフルドラに扮した踊り手が観光客の前に現れる。
現代の小説やゲームにも、森の誘惑者としてしばしば登場する。原典において重要なのは誘惑よりも隠蔽のほうで、彼女が危険なのは美しいからではなく、人間に見えるからである。