ソロヴェイ・ラズボイニク
ソロヴェイ=ラズボイニク · 鶯の盗賊 · オディフマンチエフの子
イリヤー・ムーロメツがキエフへの道で倒した怪物。九本の樫に組んだ巣に座り、口笛ひとつで人馬を打ち倒し、三十年にわたって街道を塞いでいた。
解説
概要
ソロヴェイ=ラズボイニク(Солове́й-разбо́йник / Nightingale the Robber)は、ロシアの叙事詩ブィリーナに現れる怪物である。名は「鶯の盗賊」を意味し、父称としてオディフマンチエフ、ラフマーノヴィチなどが添えられる。
武器を用いない。口笛と咆哮だけで人馬を打ち倒す。イリヤー・ムーロメツがキエフへ向かう道で最初に倒すのがこの敵であり、東スラヴの物語のなかで最も名高い怪物の一つである。ベラルーシの叙事詩に現れる角のある鷹(ソロヴェイ)とは同系統であり、竜ズメイ・ゴルィヌィチとも近い位置にある。
登場する物語
チェルニゴフからキエフへ至る街道を、彼は三十年にわたって塞いでいた。騎馬の者も徒歩の者も通さず、武器ではなく口笛で殺す。
イリヤーがその道を行くと、二十露里の手前で最初の口笛が鳴った。勇士の心はひるまない。十露里の手前で二度目が鳴り、今度は馬がつまずいた。九本の樫に組んだ巣の真下まで来たとき、怪物は聖なるルーシの勇士を見て、三たび笛を吹き、殺そうとする。イリヤーは矢を放って右目もろとも射抜き、鐙に縛りつけてキエフへ引いていった。
宮廷で大公は、その口笛を聞かせよと命じる。制止も聞かず吹かせたところ、屋根は落ち、居並ぶ者は倒れ、大公自身も伏した。イリヤーは怪物を野へ引き出して斬る。
彼には家がある。堅固な屋敷と楼閣があり、そこに妻と息子たち、そして「渡し守」と呼ばれるポリャニーツァの娘が住む。怪物でありながら一家の主でもあるという点で、この敵は単純な化け物ではない。
図像と象徴
姿は二通りに語られる。人の形をとる場合と、鳥の翼を持ち、その重みで樫がたわむほど巨大な存在として現れる場合である。どちらとも決めがたい混成の像を、ヤギチは「鳥と人と怪物の勇士が入り混じったもの」と評した。
象徴の中心は、声そのものが武器であるという一点にある。剣も爪も持たず、口笛だけで街道を三十年封じる。イリヤーの物語において、これは最初に越えるべき障害が「音」であったことを意味する。しばしば口笛は森の嵐の擬人化と読まれてきた。
17世紀のロシアでは、この人物はまったく人間の姿で装飾工芸の題材となり、槍を構えて馬にまたがる姿がタイルに焼かれた。ルボークでは、ポーランドの貴族そっくりの装いで描かれている。本ページに掲げたのは、ニコライ・レーリヒが1910年に連作「勇士の帯」のために描いた板絵である(ロシア美術館蔵)。
関わる伝承
この怪物の出自については、仮説ばかりが積み重なっている。ヤギチはソロモン伝説からの派生を説いたが、ミッレルはその根拠の薄さを指摘し、代わってイランの霊鳥シームルグや、ペルシアの物語に現れる怪物たちとの近さを主張した。ソロヴェイがしばしばテュルク風の容貌で描かれるのはこの説と響き合う。ハランスキイはゲルマンの伝説と比べてジークフリートの影を見た。ブスラーエフは年代記に現れる盗賊モグートに歴史的な核を求めた。いずれも決め手を欠く。
19世紀には、キリスト教化を逃れて森に隠れた異教の祭司がこの怪物の正体だ、という説明も流布した。ザブィリンがそう書いている。イリヤーがキエフの大公のもとへ向かう道すがら彼を倒すという筋立てを、改宗の寓意として読む発想である。ただしこれは19世紀の解釈であって、叙事詩がそう語っているわけではない。
文化的足跡
オリョール州には「九本の樫」という叙事詩そのままの名を持つ村があり、近くにはスモロジンカ川も流れている。物語の舞台を実在の地形に当てはめる試みは古くから行われてきた。
近代以降、ソロヴェイは絵本とアニメの定番の悪役となった。2004年に始まったロシアの長編アニメ「三勇士」シリーズでは、当初の敵役として登場したのち味方に転じ、シリーズを通じての人気者になっている。三十年街道を塞いだ怪物は、いまや喜劇の相棒である。