プサマテー
プサマテ · プサマテー · Psamathe
ネーレーイスの一人。アイアコスから逃れようとして海豹に変じたが果たせず、子ポーコスを産んだ。子が殺されたとき、ペーレウスの家畜に巨大な狼を差し向けた。
解説
概要
プサマテー(Ψαμάθη)は、ギリシア神話のネーレーイスの一人である。海神ネーレウスとオーケアニスのドーリスの五十人の娘のうちの一人にあたる。
アイギーナ王アイアコスとのあいだに子ポーコスを産んだ。ポーコスが異母兄ペーレウスとテラモーンに殺されたとき、彼女はペーレウスの家畜の群れに巨大な狼を差し向けた。
神話・物語
この女神をめぐる話は二つある。
第一は、アイアコスによる暴力である。言い寄られた彼女は逃れようとして海豹(あざらし)に姿を変えた。しかし果たせず、その交わりから生まれた子がポーコスである。名は海豹を意味するポーケーに由来し、母の変身を記憶している。
第二は、子の死への報復である。ポーコスは競技に秀でていたため、異母兄弟の妬みを買った。エンデーイスの憎しみもあったとされる。兄弟は籤を引き、円盤投げの最中にポーコスを殺した。
プサマテーは、プティーアーへ逃れたペーレウスの家畜を襲わせるために巨大な狼を送った。ペーレウスが祈ると、この女神は憐れんで狼を石に変えたという。
のちにエジプト王プローテウスの妻となり、子テオクリュメノスと娘エイドー——のちのテオノエー——を産んだ。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
海豹への変身が、この女神を規定する。追われた女が獣に変わって逃れようとし、果たせずに子を産む。同じ型は、デーメーテールが牝馬に変じてポセイドーンから逃れようとする挿話や、テティスがペーレウスの手を逃れようと次々に姿を変える挿話にも見られる。
とりわけテティスとの並行は明瞭である。同じネーレーイスであり、同じアイギーナ王家の男と結ばれ、いずれも変身によって抵抗する。母子二代——プサマテーとアイアコス、テティスとペーレウス——が同じ型を繰り返している。
狼を石に変えるという結末も、報復が完全には遂げられないことを示す。祈りによって神は憐れむが、殺された子は戻らない。
系譜と関係
父はネーレウス、母はドーリス。子はポーコス(アイアコスとの子)、テオクリュメノスとエイドー(プローテウスとの子)。
異母兄弟はテラモーンとペーレウス、その母はエンデーイスである。
文化的足跡
ポーコスの名がポーキス地方の名祖とされる伝えがある。殺された子の名が、ギリシア中部の地名として残ったことになる。
日本語圏でこの名が挙げられることはまずない。しかしアイギーナ王家の分裂——テラモーンとペーレウスの追放——の背後に、この女神の子の死がある。トロイア戦争の英雄たちの配置を決めた事件の当事者である。