パケト
パケト · パクヘト · Pakhet
「引き裂く者」を意味する雌獅子の戦の女神。砂漠のワディの口を司り、鉄砲水の道を開く。ハトシェプストがベニ・ハサン近くに岩窟神殿を築き、ギリシア人はアルテミスと同一視してスペオス・アルテミドスと呼んだ。
解説
概要
パケト(pḫt / Pakhet)は、「引き裂く者」を名とする古代エジプトの雌獅子の女神である。中部エジプト、ベニ・ハサン付近の東岸の砂漠を本拠とし、狩りをする獣の荒々しさを体現した。
神話・物語
パケトは、砂漠から耕地へ下りてくるワディ(涸れ谷)の出口を司る地方の女神だったと考えられている。称号「嵐の雨の道を開く者」は、まれな豪雨がワディに鉄砲水を走らせる土地の事情を映したものと解される。中王国には名が記録に現れ、セクメトやバステトと並ぶ猫科の女神の一柱として扱われるようになった。
新王国第18王朝のハトシェプスト女王は、ベニ・ハサンの南の崖に岩窟神殿を彫らせてパケトに捧げた。入口上部の長い碑文で女王は、ヒクソスの支配で荒れた神殿を自分が復興したと宣言する。王権の正統性を示すために前の時代の混乱を強調した文で、ヒクソス期を後世がどう語ったかを伝える資料としても重要である。のちにセティ1世がこの神殿の装飾を引き継いだ。
図像と象徴
雌獅子の頭をもつ女性、あるいは雌獅子そのものとして表される。雌獅子の女神はどれも同じ頭部で描かれるため、像だけで他の女神と区別することは難しく、銘や出土地が同定の決め手になる。
岩窟神殿の周辺には猫の墓地があり、19世紀に掘り出された大量の猫のミイラは、パケトの祭祀に捧げられたものと考えられている。
系譜と関係
猫科の女神の系列で、セクメト、バステト、マフデトと近い位置にある。ギリシア人はパケトを狩猟の女神アルテミスと同一視し、岩窟神殿を「スペオス・アルテミドス(アルテミスの洞窟)」と呼んだ。この呼び名は今日も遺跡名として使われている。
文化的足跡
スペオス・アルテミドスの碑文は、ハトシェプストの治世を論じるエジプト学の研究で繰り返し引かれ、ヒクソス支配の記憶が新王国の王権思想にどう組み込まれたかを示す例とされる。