ネリオー
ネリエーネ · ネリオ · Neriene
ローマの古い戦の女神。マールスの配偶神で、名はサビニ語で「力」を意味するという。戦利品が捧げられた。
解説
概要
ネリオー(Nerio)は、ローマの古い戦の女神である。ネリエーネの形でも伝わる。武勇を擬人化した神格とされ、軍神マールスの配偶として祭祀のうえで対に扱われた。敵から奪った戦利品がこの女神に捧げられることがあった。のちにベローナと、ときにミネルウァとも同一視されている。
神話・物語
物語は伝わらない。この女神について語りうるのは、名と、祭祀における位置だけである。
ローマの文献はマールスに二柱の妻を認めており、一方がネリオー、他方がモーレースとされる。神に配偶を与える古い作法の名残とみられ、いずれも独立した神話を持たない。
名の由来については、古代人自身が説明を残している。アウルス・ゲッリウス『アッティカ夜話』は、ネリオーがサビニ語で「力と剛毅」を意味する語だと記す。近代の言語学もこれと矛盾しない。印欧祖語の *h₂nḗr——古代ギリシア語のアネール(男)と同源で、力・活力・武勇といった男性的な性質を指す語群に属する——に遡ると考えられている。すなわちこの女神は、武勇という性質そのものが神の名になったものである。ローマのウィルトゥースや、ギリシアのアレーテーと同じ発想に立つ。
ネリオーの席は、のちに他の宗教から取り入れられ神話を与えられた神々に取って代わられた。ギリシアの物語がローマに流れ込むにつれ、物語を持たない古い神格が背後へ退いていく過程の一例である。ベローナとの同一視も、その流れのなかで進んだと考えられる。
図像と象徴
固有の図像は知られていない。古代の作例も、後世の造形も残らない。物語を持たず、祭祀の文脈でのみ名が呼ばれた神格は、像を必要としなかった。本項では主画像を置いていない。
系譜と関係
マールスの配偶神。ベローナおよびミネルウァと同一視された。軍神のファセットのなかでは、戦そのものではなく、戦士に求められる資質の側を担う。ローマの神々にはこうした抽象名詞の神格が多く、ウィルトゥース、ホノース(名誉)、ウィクトーリア(勝利)などが同じ列に並ぶ。
文化的足跡
後世の文学・美術がこの女神を取り上げることはほとんどない。ラテン文学のなかでも言及はまれで、名を伝えるのは主として古代の文法家と辞書編纂者である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。