ネメトナ
ネメトーナ · ウィクトーリア・ネメトナ · アルネメティア
「聖なる林の女」を意味するガリアの女神。屋根のない祭祀の場を守るとされ、碑文ではしばしばマールス(ロウケティウス)と対で祀られる。ネメテス人の名祖にあたる。
解説
概要
ネメトナ(Nemetona、「聖なる林の女」)は、ガリア北東部に起源をもつケルトの女神である。
ゲルマン=ケルト系の部族ネメテス人の名祖にあたる神格と考えられている。祭祀の痕跡は、彼らのかつての領域であったライン川中流域と、現在のドイツ・トリーアにあるアルトバッハタール聖域に見つかる。イングランドのバースでも、ガリアのトレウェリ族出身の男によって奉献された祭壇が確認されている。
神話・物語
物語は伝わらない。この女神について知られているのは、名と、碑文と、結びつけられた神格である。
碑文はしばしば、この女神をマールスと組み合わせる。マールスはときにケルト名ロウケティウスで呼ばれた。バースの碑文では「ロウケティウス・マールス」と対をなし、トリーアとアルトリプでは「マールス」と組む。マインツ近郊のクライン=ヴィンターンハイムでは、同じ遺跡からネメトナとロウケティウスへの別々の奉献碑が出ている。アルトリプの遺跡からは、この女神を表したテラコッタも出土した。
アイゼンベルクの碑文の一つは、この女神をウィクトーリアと同一視しているように読める——神なる家の栄誉のため、マールス・ロウケティウスとウィクトーリア・ネメトナに、将軍の被保護者マルクス・アウレリウス・セニッルス・セウェルスが、籤を入れた壺と皿を、自由に、喜ばしく、当然の報いとして誓願のうちに奉献した。グラトゥスとセレウクスが執政官であった年の五月朔日前十日(221年4月22日)。
日付まで記された、具体的な奉献の記録である。
図像と象徴
図像はほとんど伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。アルトリプ出土のテラコッタが数少ない作例として知られる程度である。
名がこの女神のすべてである。ネメトナはケルト語の語根 nemeto- に由来し、聖別された宗教的空間、とりわけ聖なる林を指す。この女神は、屋根のない祭祀の場を守る女神と考えられてきた。同じ語根は、ローマ・ブリテンの女神アルネメティアや、グルノーブルの碑文で知られるマトレス・ネメティアレスの名にも見える。
建物ではなく場所そのものが神格になっているという点が要である。ケルトの祭祀は、神殿を建てるより先に、木立を聖別することから始まった。ローマ人が神殿を建てたのちも、その場所の名と女神の名は残った。
関わる神格・伝承
マールス、あるいはケルト名ロウケティウスと対で祀られる。同じくマールスの名の下に祀られたガリアの神としてはカムルスがいる。
アイルランドの戦の女神ネヴァンと同一視する説があるが、ノエミ・ベックはこれを「不正確かつ無関係」と退けている。名の一部が似ていることを根拠に大陸と島嶼の神格を結びつける議論は、ケルト宗教史においてしばしば批判の的になってきた。
同じ語根を共有する女神としては、マトレスの一形態であるマトレス・ネメティアレスがある。
文化的足跡
nemeto- の語根は、ヨーロッパの地名に広く残った。フランスのネミュールやナンテール、スペインのネメトブリガ、そしてイングランドのヴェルネメトゥム。いずれも聖なる林があった場所を指す。
この女神が示すのは、ケルトの宗教における場所の重みである。神殿ではなく林、像ではなく空間。そこに名を与えた結果として、一柱の女神が生まれた。図像がほとんど残らないのは、そもそも図像を必要としない祭祀だったからかもしれない。