ナーラーヤナ
ナーラーヤナ · 那羅延 · プルショーッタマ
ヴィシュヌの姿の一つで、その別名。原初の水の上で千の頭の蛇シェーシャに横たわって眠り、その臍から伸びた蓮の上にブラフマーが生まれて世界を創る。名は『マヌ法典』で「水に住む者」と説明される。仏教には那羅延天として取り込まれた。
解説
概要
ナーラーヤナは、ヒンドゥー教の神ヴィシュヌの姿の一つであり、その別名でもある。宇宙の始まりの水の上で、千の頭をもつ蛇シェーシャに横たわって眠る姿で表され、その臍から伸びた蓮の上に創造神ブラフマーが生まれて世界を創るとされる。ヴィシュヌ派では、至高の存在を指す名として重んじられる。
『マヌ法典』(1章10節)は、「ナーラ」は水を、「アヤナ」は住まいを意味するとして、ナーラーヤナの名を「水に住む者」と説明する。「人(ナラ)が帰っていく場所」と解する説もある。
神話・物語
世界が創られる前、あるいは世界が滅びたのちには、宇宙は始まりの水に覆われている。その水の上で、ナーラーヤナは千の頭をもつ蛇シェーシャに横たわって眠る。眠る神の臍からは蓮が伸び、その花の上にブラフマーが生まれて、世界を創りはじめる。この姿は、アナンタシャヤナ(「無限の蛇の上に横たわる者」)と呼ばれる。
『バーガヴァタ・プラーナ』のアジャーミラの話では、罪を重ねた男アジャーミラが、死の床で末の子ナーラーヤナの名を呼んだことで、ヤマドゥータ(ヤマの使者)の手から救われる。
信仰
「オーム・ナモー・ナーラーヤナーヤ」(ナーラーヤナに帰依したてまつる)は、ヴィシュヌ派で最も重要な真言の一つで、八つの音節からなることから「八字の真言」と呼ばれる。南インドのラーマーヌジャの流れをくむシュリーヴァイシュナヴァ派では、とりわけ重んじられている。
ナーラーヤナは仏教にも取り込まれ、仏法を守る神「那羅延天」となった。日本の寺院の門に立つ仁王(金剛力士)の一体を「那羅延金剛」と呼ぶこともある。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、M・V・ドゥランダルの《シェーシャシャーイー——ラクシュミー・ナーラーヤナ》で、シェーシャの上に横たわるナーラーヤナを、妃ラクシュミーとともに描く。
系譜と関係
ヴィシュヌの姿の一つであり、聖仙の兄弟ナラ・ナーラーヤナの一人もこの名を負う。
文化的足跡
「ナーラーヤナ」は、今日のインドで男子の名として広く用いられている。
なおヒンドゥー教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。