ナラ・ナーラーヤナ
ナラ・ナーラーヤナ · Nara-Narayana
ヴィシュヌの部分的化身とされる一対の聖仙の兄弟。ヒマラヤのバドリナートで千年苦行し、インドラが遣わした天女に対してナーラーヤナは自らの腿からより美しい女ウルヴァシーを生み出した。『マハーバーラタ』でアルジュナとクリシュナの前世とされる。
解説
概要
ナラとナーラーヤナ(Nara-Nārāyaṇa)は、ヒンドゥー教の伝承に語られる、一対の聖仙の兄弟である。ヴィシュヌが地上に部分的に現れた姿とされ、ヒマラヤの聖地バドリナートで千年にわたって苦行を続けたという。叙事詩『マハーバーラタ』は、英雄アルジュナとその導き手クリシュナの前世を、このナラとナーラーヤナであるとしている。
神話・物語
『バーガヴァタ・プラーナ』などによれば、ナラとナーラーヤナは、ダルマとムールティの子とされる。二人はヒマラヤの聖地バドリナートで、千年のあいだ瞑想と苦行を続けた。その苦行の力を恐れたインドラは、天の舞姫たちを送って修行を妨げようとした。するとナーラーヤナは自らの腿を打ち、そこから天の舞姫たちよりも美しい女性を生み出した。この女性がウルヴァシーで、名は「腿から生まれた者」と解される。誘惑に屈するのでも、力ずくで退けるのでもなく、より美しい者を生み出して誘惑を無意味にしたという話である。
『マハーバーラタ』は、アルジュナとクリシュナの前世を、ナラとナーラーヤナであるとする。クルクシェートラの戦場で、戦車の上のクリシュナ(ナーラーヤナ)が、戦いをためらうアルジュナ(ナラ)に教えを説く。これが『バガヴァッド・ギーター』である。「ナラ」は人を、「ナーラーヤナ」は神を意味する。神と人とが一対となり、神が人を導くという関係が、二人の名に表れている。
図像と象徴
同じ姿の二人の苦行者が並んで座る姿で表される。古い作例として、ウッタル・プラデーシュ州デーオーガルのダシャーヴァターラ寺院(6世紀頃、グプタ朝)の壁面に、山中で瞑想する二人の聖仙を彫った浮彫がよく知られる。本サイトの主画像は、アフマダーバードのスワーミナーラーヤン寺院に祀られたナラ・ナーラーヤナ像である。
系譜と関係
ヴィシュヌの部分的な化身であり、アルジュナとクリシュナの前世とされる。ウルヴァシーを生み出した。
文化的足跡
二人が苦行したとされるバドリナートには、その名を負うナル山とナーラーヤン山がそびえ、その間に建つバドリナート寺院は、ヒンドゥー教の四つの大きな聖地(チャール・ダーム)の一つに数えられる。
なおヒンドゥー教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。