テオニム THEONYM · 世界神話アーカイブ 神格を検索
ムジナ
PLATE — 貉
YAMATO · 日本神話

ムジナ

狢 · むじな · マミ

寺島良安『和漢三才図会』(正徳2年/1712年)より「狢」 PUBLIC DOMAIN

アナグマを指す語だが、地方によってはタヌキやハクビシンをも含み、指す動物が定まらない。狸・狐と並ぶ、人を化かす獣として語られてきた。

01

解説

概要

ムジナ(貉・狢)は、主としてアナグマを指す語である。ただし時代と地方によってはタヌキを、あるいはハクビシンを指し、これらを区別せずまとめて呼ぶこともある。「マミ」などの地方名も交錯し、指し示す動物は一定しない。この曖昧さのまま、ムジナは狸や狐と並ぶ変化の獣として語られてきた。

登場する物語

文献上の初見は『日本書紀』推古天皇三十五年(六二七)の条で、陸奥国に狢が現れて人となり歌をうたったと記す。七世紀の時点で既に、この獣が人に化けるという観念があったことになる。

化かし方には型がある。田や道を深い川のように見せる、馬糞を饅頭に肥溜めを風呂に見せる、方向感覚を失わせる——この三つが代表的である。年を経ると背に白い毛が十字に生えて人を化かせるようになる、といった伝えもある。下総(現在の千葉・茨城)では「かぶきり小僧」といって、丈の短い着物を着たおかっぱ頭の小僧に化け、夜道で「水飲め、茶を飲め」と声をかけたという。

小泉八雲の怪談『貉』は、のっぺらぼうに出会う話をムジナの仕業として題名に据えた。ただし小泉凡は、これを日本の伝承を素材とした八雲自身の創作とみる可能性を指摘している。今日ムジナといえばのっぺらぼうを連想する向きも多いが、その連想は八雲の作品を経由して生まれたものである。

名と分類

「ムジナとは何か」という問いは、民俗の問題であると同時に語の問題でもある。『和名類聚抄』など平安期の辞書では狸・狢・猯がそれぞれ別の訓に分かれるが、実際の運用では区別が保たれなかった。本項に掲げる『和漢三才図会』(正徳二年/一七一二)の図も、この曖昧な対象を図として固定しようとした試みの一つである。

この混乱は近代の法廷にまで持ち越された。大正十三年(一九二四)、禁猟期にムジナを捕らえた男が狩猟法違反に問われた事件では、被告が「ムジナはタヌキとは別の獣だと思っていた」と主張し、大審院は事実の錯誤を認めて無罪とした。いわゆる「たぬき・むじな事件」で、刑法の教科書に載る有名な判例である。俗称と学名の食い違いが法的な争点になった珍しい例といえる。

アイヌ文化ではタヌキとムジナを区別せず、エゾタヌキを「モユㇰ」と呼ぶ。ユカㇻ「モユㇰ キムンカムイ」は一般に「ムジナと熊」と訳され、熊とともに暮らしていたモユㇰが人間の世界へ行った末に家の入口を守る神・病を癒す神になったと語る。

関係する妖怪

化け狸との境は、伝承の上でも語の上でもきわめて曖昧である。同じ話が土地によってタヌキの仕業ともムジナの仕業とも語られ、どちらが本来かを決めることには意味がない。狐(九尾の狐の系統に連なる変化の狐)を加えた三者は、化ける獣の代表として並び称されてきた。

文化的足跡

「同じ穴の狢」は、一見異なるようで実は同類であることのたとえで、多く悪い意味に用いる。アナグマの巣穴をタヌキやキツネが共用することが実際に確認されており、この観察が言い回しの背景にあると考えられている。ムジナ単独を主人公とする創作は多くないが、のっぺらぼうの怪異の呼び名として、その名は今も生きている。

02

領分・別名

03

資料

Wikidata
Q2625845 — 骨格データの出典
Commons
Mujina — 図像カテゴリ