モーヒニー
モーヒニー · モヒニ · Mohini
ヴィシュヌがとった魅惑の女性の姿で、化身のうち唯一の女性。乳海攪拌ののちアスラから霊薬アムリタを取り上げて神々に与え、バスマースラを舞に誘って自滅させた。シヴァとのあいだにアイヤッパンをもうけたとされる。ケーララの舞踊モーヒニヤーッタムの名の由来。
解説
概要
モーヒニー(Mohinī)は、ヒンドゥー教の魅惑の女神である。ヴィシュヌ神の唯一の女性の化身(アヴァターラ)である。
宿命の女、魔性の女として描かれ、恋する者や魔を狂わせ、ときに彼らを破滅へ導く。
神話・物語
モーヒニーが最初に現れるのは、『マハーバーラタ』の乳海攪拌の物語である。神々と阿修羅が乳の海をかき回したのち、ヴィシュヌは人を惑わす美女モーヒニーの姿をとって現れた。モーヒニーは不死の霊薬アムリタを、力の衰えていた神々には分け与えたが、優勢であった阿修羅たちには与えなかった。これによって、神々は阿修羅たちを打ち破ることができたのである。阿修羅の一人は見破って神々のなかに紛れ込み、アムリタを飲んだ。太陽の神スーリヤと月の神チャンドラがこれを告げたため、ヴィシュヌは円盤でその首を刎ねたが、アムリタが喉を通っていたため首は死なず、ラーフとなって日食や月食を起こすようになった。
阿修羅バスマースラは、シヴァから「手を置いた者を灰にする力」を授かり、その力でシヴァ自身を襲った。そこへモーヒニーが現れて舞を舞い、一緒に踊るよう誘った。モーヒニーが自分の頭に手を置く仕草をすると、バスマースラもそれを真似て自分の頭に手を置き、灰になってしまった。
シヴァはモーヒニーの姿を見て心を奪われ、二柱のあいだにアイヤッパン(ハリハラプトラ、「ハリとハラの子」)が生まれたという。ケーララ州のサバリマラを聖地とするアイヤッパンへの信仰の起源である。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、鞦韆に乗るモーヒニーの図である。
モーヒニーは、よく知られたヴィシュヌの十化身(ダシャーヴァターラ)には数えられないが、『バーガヴァタ・プラーナ』などの化身の列挙には含まれ、ヴィシュヌの化身のうちでただ一つの女性の姿である。
系譜と関係
ヴィシュヌの女性の化身。バスマースラを倒した。シヴァとのあいだにアイヤッパンをもうけた。
文化的足跡
ケーララ州の古典舞踊「モーヒニヤーッタム」(モーヒニーの舞)は、この女神の名を冠する。女性のみが踊る優美な舞踊である。
なおヒンドゥー教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。