バスマースラ
バスマースラ · Bhasmasura
シヴァから手を置いた者を灰にする力を授かり、その力でシヴァ自身を追ったアスラ。ヴィシュヌが化けた魅惑の女モーヒニーの舞を真似て自らの頭に手を置き、灰となった。恩人に牙をむく者の代名詞。
解説
概要
バスマースラ(Bhasmāsura)は、ヒンドゥー教の物語に登場するアスラ(魔)である。苦行によってシヴァから、手を置いた者を灰(バスマ)にする力を授かり、その力で授けた当のシヴァを追った。ヴィシュヌの化身である魅惑の女モーヒニーに欺かれ、自らの頭に手を置いて灰となった。シヴァが体に塗る聖灰から生まれたとする伝えもある。
神話・物語
バスマースラは厳しい苦行でシヴァを喜ばせ、手を置いた者を灰にする力を求めた。シヴァがこれを授けると、バスマースラは力を試そうとしてシヴァ自身に手を伸ばす。シヴァは逃れ、ヴィシュヌに助けを求めた。
ヴィシュヌはモーヒニーとなってバスマースラの前に現れた。心を奪われたバスマースラが求婚すると、モーヒニーは、自分と同じように舞えたら受け入れると答える。二人は舞い、モーヒニーが舞の所作のなかで手を自分の頭に置くと、バスマースラもそれに倣って自らの頭に手を置き、たちまち灰になった。
この話は主要なプラーナ文献には見えず、地方の伝承や芸能を通じて広まった。『バーガヴァタ・プラーナ』第10巻には同じ型の話がある。アスラのヴリカは苦行の末、頭に触れた者を死なせる力をシヴァから得て、シヴァを追う。ヴィシュヌは少年の修行者に化けて、その力を自分の頭で試してみよと勧め、ヴリカは自ら倒れる。
図像と象徴
舞うモーヒニーと、その所作を真似て手を頭に上げるバスマースラの組み合わせが定型である。主画像は、ラージャ・ラヴィ・ヴァルマ(1848〜1906)の描いた「モーヒニーとバスマースラ」である。
系譜と関係
シヴァから恩寵を受け、モーヒニーに滅ぼされた。苦行で得た恩寵の抜け道を突かれて滅びるアスラとして、ヒラニヤカシプと並べて語られる。
文化的足跡
カルナータカ州ヤーナの黒い岩山は、バスマースラが焼けた灰でできたとされ、二つの峰はモーヒニーとシヴァにちなむ名で呼ばれる。1913年、ダーダーサーヘブ・パールケーは映画『モーヒニーとバスマースル』を撮り、インド映画で初めて女性が役を演じた作品となった。インドの英語や諸言語では、生みの親や恩人に牙をむく者を「バスマースラ」と呼ぶ。
なおヒンドゥー教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。