ミール・エスパーニェ
ミレシウス · ミール · Míl Espáine
アイルランドのゲール人の神話上の祖。名はラテン語「ヒスパニアの兵士」の翻訳で、中世の学僧の創作とみられる。イベリアで死に、その子らがアイルランドへ侵攻した。
解説
概要
ミール・エスパーニェ(Míl Espáine、のちにミレシウスとラテン語化)は、アイルランドの起源神話において、アイルランドの最後の住人——「ミールの子ら」すなわちミレー族——の神話上の祖である。ミレー族は、アイルランドのゲール人の大多数を表す。
父はブレオガンの子ビレである。現代の歴史家は、この人物を中世アイルランドのキリスト教著述家の創作とみている。
神話・物語
マーク・ウィリアムズは、この名を「語源上の虚構」と評する。ラテン語の mīles Hispaniae(「ヒスパニアの兵士」)を翻訳したもので、9世紀のネンニウス『ブリトン人の歴史』第13節に見える句に由来するという。
イベリアが起源の地とされた理由は複数考えられる。A・G・ファン・ハーメルは、セビリャのイシドールスがゴート族の歴史の序でイベリアを「あらゆる民族の母」と称えたことに遡らせる。また、アイルランドのラテン名ヒベルニアがイベリアに由来するという誤った信念、あるいは古典期の地理学者がアイルランドをイベリアの真向かいに置いた誤りも関わる。『アイルランド来寇の書』第100節は、ブレオガンの塔からミレー族のイースがアイルランドを見渡せたと記す。
伝えによれば、ミールはスキュティアからエジプトを経てイベリアに至り、そこで死んだ。アイルランドへの侵攻を率いたのは、その子らである。妻スコタ——エジプトのファラオの娘——は子らとともにアイルランドへ渡り、戦いで死んだ。ケリー州の谷にその名が残る。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
この人物を規定するのは、実在しなかったという点である。名がラテン語の句の翻訳であり、その句自体が「スペインの兵士」という普通名詞にすぎない。中世の学僧が、ゲール人の起源を聖書とローマの枠組みに接続するために作り出した祖である。
しかし作り物であることは、この人物の重要性を減じない。アイルランドの中世の系譜はすべてこの人物に収斂し、ゲール人の王家は例外なくその子孫を称した。
系譜と関係
父はビレ、祖父はブレオガン。妻はスコタ。子はエーベル・フィン、エーレモーン、アメルギン、ドンらの七人。
文化的足跡
ガリシア地方(スペイン北西部)では、ブレオガンとミールの伝承がケルト的アイデンティティの根拠として今日も参照される。ガリシア州歌『オス・ピノス』はブレオガンに言及する。
日本語圏では、「ミレー族」の名でアイルランドの最後の来寇者として紹介される。祖の名まで挙げられることは少ない。