マシュヤグとマシュヤーナグ
マシュヤとマシュヤーナ · マルトとマルティヤーナグ · Mašyag
ゾロアスター教文献に伝わる最初の人間の男女。原初の人ガヨーマルトの精から大黄の潅木として地に生え、のちに男女の姿に分かれたと語られる。
解説
概要
マシュヤグとマシュヤーナグ(Mašyag, Mašyānag)は、ゾロアスター教の文献が伝える最初の人間の男女である。兄妹であり、同時に最初の夫婦でもある。中期ペルシア語の形で、マシュヤ・マシュヤーナーとも表記される。二人はつねに対で語られるため、本サイトも一項として扱う。
神話・物語
原初の人ガヨーマルトがアンラ・マンユに倒されたとき、その精は大地——すなわちスプンタ・アールマティ——に受け止められた。四十年ののち、そこから大黄の潅木が生える。やがてそれは男と女の形に分かれ、人となった。植物として地から生え出た人間、という始まりである。
『ブンダヒシュン』は、ここに苦い一節を加える。生まれてまもなく、二人はアンラ・マンユに欺かれ、世界を創ったのはアフリマンだと口にしてしまう。人が語った最初の虚偽である。この一言によって二人は罪を負い、以後長く子を得られなかったと伝えられる。人類の始まりが、同時に虚偽の始まりでもあるという構えになっている。
やがて二人は結ばれ、男女一組の双子を七組もうけた。その組のひとつから系譜が伸び、フラワーグとフラワーギーの兄妹を経てフーシャングに至る。フーシャングはアーリア人最初の王朝ピーシュダードを開き、その血からタフムーラス、ジャムシードが出る。人類史と王統がこの二人から一本に繋がっている。
図像と象徴
この二人を表した古代の造形は伝わらない。本サイトが主画像を掲げないのはこのためである。大黄の茎から人が生じるという、この伝承のもっとも印象的な場面は、後代のイラン美術の主題にならなかった。語られはしても描かれない伝承がある、ということである。
系譜と関係
父はガヨーマルト、その精を受けたのは大地スプンタ・アールマティ。子は七組の双子で、その子孫からピーシュダード朝の王統が出る。ともに殺された原初の牛から穀物と薬草が生じたとされ、人と植物がそれぞれ別の原初の存在の死から生まれるという対称が組まれている。
文化的足跡
最初の人間が兄妹であったというこの伝承は、ゾロアスター教における近親婚(フヴァエトヴァダタ)をめぐる議論と結びついて論じられてきた。ギリシア・ローマの著述家がこの習慣について記録を残しており、その記述をどこまで信頼するか、また教義上どのような位置を占めていたのかについては、研究者のあいだで見解が分かれている。