ルグス
ルゴス · ルグ · ルゴウェス
碑文によってのみ知られる大陸ケルトの神。図像は一つも伝わらず、単数形が確実に読める碑文はスペインの一例のみである。アイルランドのルーと名の上で連なる。
解説
概要
ルグス(Lugus、ルゴス、ルグとも)は、碑文によってその信仰が確認されるケルトの神である。この神を描いた図像は一つも知られていない。
大陸ヨーロッパに残る奉献碑は前1世紀から後3世紀にかけてのもので、イベリア半島に集中する。ただしその大半は神名を複数形——ルゴウェス(Lugoves)——で記す。単数形が確実に読めるのは、スペインのペニャルバ・デ・ビリャスタルの岩に刻まれた早い時期の碑文だけである。
神話・物語
物語は伝わらない。この神について論じられてきたのは、名の分布と、他の神格との対応である。
カエサルは『ガリア戦記』で、ガリア人が最も篤く崇める神をローマのメルクリウスの名で呼び、技芸の発明者、道と旅の導き手、商いの守護者と記した。この記述を、島嶼の伝承と、ガリアの地名に含まれる Lug(u)- の要素と突き合わせて、ルグスを指すものと解する読みが提出されている。ローマ期ガリアにおけるメルクリウス信仰の隆盛は、この同定を支える材料の一つとされる。ルグドゥヌム(現リヨン)をはじめ、この要素を含む地名は各地にある。
中世の島嶼神話との結びつきも論じられてきた。アイルランドのルーは超自然的な力を持つ主要な神格で、多芸の職人であり収穫祭の創始者であるという性格が、ガリアのメルクリウスと比較される。ウェールズのスレイ・スロー・ゴフェス(『マビノギオン』第四枝の主人公)は小さな存在だが、名の上でアイルランドのルーと結ばれる。ルゴウェスが靴作りと関わるとされる点も、スレイと共有する。
汎ケルト的な神ルグスをこれらの材料から再構成する試みは、19世紀にアンリ・ダルボワ・ド・ジュバンヴィルが提唱したものである。この説には批判が多い。ベルンハルト・マイアーらケルト学者の指摘によって、8月1日の汎ケルト的なルグス祭という想定は放棄された。それでも汎ケルトのルグスの存在を擁護する研究者は今もいる。
図像と象徴
図像がない以上、この神を示すのは文字だけである。本サイトが掲げるのは、フアン・カブレが1910年に公刊したペニャルバ・デ・ビリャスタルの岩刻碑文の図版である。ケルティベリア語で書かれ、ルゲイ(Luguei)の語形を二箇所に含む。この神を単数形で確実に呼ぶ、ほぼ唯一の証拠である。
名の語源は繰り返し推測されてきたが、定説はない。最もよく引かれるのは印欧祖語の *leuk-(輝く)に遡らせる説で、太陽神とみなす提案と結びついてきた。ただしギャレット・オルムステッドは、既知の音韻変化からするとケルト祖語 *lug- は *leuk- から生じえないと指摘する。カルロス・ホルダン・コレラも、この語根からはアイルランド語 Luch になるはずで、実際の Lugh にはならないと述べる。
別の系統として、ハインリヒ・ヴァーグナーとエリック・ハンプはケルト祖語の「誓い」を意味する語(*lugiom あるいは *leugh-)に由来するとした。ジョン・T・コッホはこれを承け、古アイルランド語の誓約定型句をルグスへの誓いの痕跡と見る。A・G・ファン・ハメルとマイアーはケルト祖語 *lugus(山猫)から、比喩的に「戦士」を意味したのではないかとしたが、ジョン・ケアリーの論文はケルト祖語にそうした語があった証拠を欠くと結論した。少数説として、北欧のロキ、ケルト祖語 *luc-(鼠)、ガリア語 lougos(鴉)に結ぶ提案もある。
語源が定まらないことは、この神をめぐる議論の性格をよく示している。名しか残っていない神について、その名の意味さえ決まらない。
関わる神格・伝承
アイルランドのルー、ウェールズのスレイと名の上で連なる。ガリアではメルクリウスの名の下に祀られた可能性がある(インテルプレタティオ・ロマーナ)。
複数形ルゴウェスの性格と、単数のルグスとの関係は決着していない。三柱一組の神格と見る説もあり、その場合はマトレスのような複数神の系列に近づく。
文化的足跡
リヨン、ライデン、ローン——ヨーロッパ各地の地名に Lug- の要素が残る。実在の神を証明するものとしては弱いが、この語が広く用いられていたことは示している。
現代の一般書では、ルグスはしばしば「汎ケルトの太陽神」として紹介される。学界での扱いはこれとかなり違う。碑文が数えるほどしかなく、図像がなく、語源も定まらない神を、ケルト世界全体の主神として描くことには慎重な留保が必要である。