ラハム
ラハム · ラハーム · Lahamu
エヌマ・エリシュでティアマトとアプスーの第一子とされる女神。兄弟ラフムとのあいだにアンシャルとキシャルをもうけた。真水と塩水が混じる泥の神格とみる読みがある。
解説
概要
ラハム(𒀭𒆷𒄩𒈬)は、メソポタミアの宇宙論の一部の伝本に現れる小さな神格である。ラフムの女性形にあたる。
神名表のいくつかではアヌの祖先の一柱に数えられる。『エヌマ・エリシュ』ではティアマトとアプスーの第一子とされ、兄弟ラフムとのあいだにアンシャルとキシャルをもうけた。この二柱が最初の神々の親となる。
神話・物語
『エヌマ・エリシュ』における位置は、系譜の第二段にあたる。原初の水であるアプスー(真水)とティアマト(塩水)が混じり合い、そこからラフムとラハムが生じる。次いでアンシャルとキシャル、そしてアヌ、エアと続く。
この対を泥の神格とみる読みがある。真水と塩水が混じるところに堆積するもの——メソポタミアの沖積平野の成り立ちを、そのまま宇宙論に写したという解釈である。
固有の物語は伝わらない。行為として記録されているのは、生まれることと産むことだけである。
図像と象徴
図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
ただし、ラフム(男性形)については図像が知られている。六つの巻毛を持つ裸の英雄として表され、アプスーの水に関わる守護的な存在として神殿の装飾に現れる。ラハムがこれと同じ姿で表されたかどうかは分からない。
19世紀から20世紀初頭の研究者は、ラフムとラハムを黄道十二宮、あるいは親星、星座の表象と誤って解釈した。今日この読みは支持されていない。
関わる神格・伝承
兄弟にして配偶者はラフム。子はアンシャルとキシャル。
対になる男女の神格を並べて世代を刻むという構成は、『エヌマ・エリシュ』の冒頭部を貫く形式である。ラフムとラハム、アンシャルとキシャル——名の男性形と女性形が対を作り、その対から次の対が生じる。
文化的足跡
日本語圏では、『エヌマ・エリシュ』の系譜を列挙する文脈でのみ言及される。
対の神格が段階的に世界を分化させていくという構成そのものが、この叙事詩の思想である。個々の神格に物語がないことは欠落ではなく、この部分が神話ではなく宇宙論として書かれていることの結果である。