アンシャル
アンシャル · アンシャール · Anshar
「全天」を意味する原初の神で、キシャルとともに天と地の全体を表す。アヌの父。『エヌマ・エリシュ』でティアマトへの対抗を主宰し、最後にマルドゥクの王位を承認した。アッシリアでは表記の一致からアッシュルと同一視された。
解説
概要
アンシャル(Anshar、「全天」)は、メソポタミアの神で、神々の原初の王とみなされた。積極的に崇拝されることはなかった。アヌの父とみなされた。前一千年紀にはその名が、アッシリアの国家万神殿の主神アッシュルの表語文字による表記として用いられるようになった。
名と性格
アンシャルの名は楔形文字で AN.ŠÁR と書かれた。シュメール語から「全天」と訳しうる。ベンジャミン・R・フォスターは、キシャルとともに、天と地の全体を表す地平の円の擬人化として理解されたと示唆する。世界と他の神々の創造に関わったと信じられた。原初の神格とみなされた。
エヌマ・エリシュ
『エヌマ・エリシュ』において、アンシャルとキシャルはラフムとラハムの子であり、アヌの親である。すなわちアプスー=ティアマト→ラフム=ラハム→アンシャル=キシャル→アヌ→エア→マルドゥクという世代の系譜の第三段に位置する。
ティアマトが復讐の軍を起こしたとき、神々の会議を招集したのはアンシャルである。エアを、次いでアヌを遣わしたが、いずれもティアマトの前から逃げ帰った。そこでアンシャルはマルドゥクを推し、マルドゥクは神々の王位を条件に戦いを引き受けた。
物語を動かす原初の王という位置が、この神を規定する。自らは戦わず、代理を送り、最後にマルドゥクの王位を承認する。世代交代を主宰する者である。
アッシリアにおける展開
前一千年紀のアッシリアでは、アッシュル神の名が AN.ŠÁR で書かれるようになった。これによってアッシュルは原初の神アンシャルと同一視され、マルドゥクより古い神とされた。バビロニアの『エヌマ・エリシュ』のアッシリア版では、主人公がマルドゥクからアッシュルに置き換えられている。
神学が政治に用いられた例である。表記の一致によって、アッシリアの国家神がバビロニアの主神より古いことにされた。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
関わる神格・伝承
配偶者はキシャル。子はアヌ。ラフムとラハムの子。アッシュルと同一視される。
文化的足跡
日本語圏でこの名が挙げられることはまずない。『エヌマ・エリシュ』の系譜において、名だけが記される段の一つである。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。