ラエグ
ロイグ · ロイグ・マク・リアンガヴラ · レイグ
アイルランド神話のクー・フーリンの御者。異界へ遣わされて帰り、主に代わって槍を受けて死んだ。
解説
概要
ラエグ(Láeg、リアンガヴァルの子)は、アルスター物語群に登場する御者である。英雄クー・フーリンの戦車を駆り、生涯の伴となった。牽く馬はリアフ・ワハ(マッハの灰色)とドゥヴ・シャングレンの二頭である。
中世アイルランドの戦士にとって御者は単なる従者ではない。戦場で主を運び、退路を選び、傷を看、そして必要とあらば主を叱咤する。物語群のなかでこの役を最もよく体現するのが彼である。
神話・物語
『クー・フーリンの病臥』では、異界からの使いとして働く。ファンドの姉妹リ・バンに伴われて異界へ渡り、そこで見たものを詳細に持ち帰った。主に代わって先に異界を見、報告する——御者の役が、そのまま物語の視点として使われている。
『クアルンゲの牛捕り』のフェル・ジアドとの決闘では、二つの働きを見せる。一つは、追い詰められた主の求めに応じて魔槍ゲイ・ボルグを川の流れに乗せて送り届けたこと。もう一つは、劣勢に立った主を言葉で責め立てたことである。物語は、御者が主を罵ることで戦意を呼び起こす作法を、この場面に明確に書き込んでいる。
死は主より先に訪れた。クー・フーリンを狙って放たれたクー・ロイの子ルガドの槍が、彼を貫いたのである。三本の槍のうち一本目が御者を、二本目が馬リアフ・ワハを、三本目が英雄自身を討つという構成になっており、主を支えるものが順に奪われていく。
図像と象徴
古代の図像はなく、当サイトも主画像を掲げない。近代の挿絵では、クー・フーリンの戦車を駆る人物としてしばしば背後に描かれる。
彼に結びつく標識は戦車と手綱である。鉄器時代のアイルランドとブリテンに二頭立ての軽戦車が用いられたことは考古学的にも裏づけられており、物語群の戦車描写はその記憶を伝えるものとみられている。もっとも『牛捕り』が描く戦車戦——浅瀬に乗りつけ、降りて一騎討ちする——は、大陸の戦車戦術とは異なる作法である。
系譜と関係
父はリアンガヴァル。主はクー・フーリン。
物語群において御者は名を持つ。アリルの御者クイリウス、コンホヴァルの御者としてのデヒテラ。しかし個性を与えられ、台詞を持ち、主の死に先立って死ぬ御者はラエグだけである。英雄の死が三段階に分けて語られるとき、その最初の段が彼に割り当てられていることは、この人物の位置を端的に示す。
文化的足跡
近代の再話において、御者はしばしば省略されるか、名のない背景に退く。しかしレディ・グレゴリー『ムルヘヴネのクーフリン』(1902年)は彼に相応の分量を与え、W・B・イェイツの戯曲群でも、英雄と対話する相手として繰り返し登場する。語り手でも敵でもない立場から英雄を見つづける人物として、近代の作家たちはこの御者を重宝してきた。