クルクッラー
クルクッラー · リクジェーマ · 作明仏母
懐柔(魅了)の儀礼を司るチベット仏教の女性本尊。赤い身色で花の弓矢と花の鉤・羂索を持ち、ラーフを踏んで踊る。カーマデーヴァと持物を共有し、密教の四事業のうち懐柔を担う。赤ターラーの一形態。
解説
概要
クルクッラー(チベット語リクジェーマ「明知の女」、漢語咕嚕咕列仏母、作明仏母)は、チベット仏教において、とりわけ懐柔(魅了)の儀礼と結びつく、寂静から半憤怒の女性の本尊である。サンスクリット語の名の起源は不明である。
ヒンドゥー教のシュリー・ヤントラと関係し、ヴァーラーヒーとともにその神秘図形の中心を占め、両者から月の相の十五の徴(ニティヤー)が生まれた。ヒンドゥー教の一部の資料ではトリプラスンダリーやターラーと同一視される。
図像と象徴
固有の図像は多いが、本サイトは主画像を掲げない。
通常、赤い身色で四臂の女神として描かれ、一対の手に花で作られた弓と矢を、もう一対の手に花の鉤と羂索を持つ。ダーキニーの姿勢で踊り、太陽を呑むラーフを踏みつける。
花の弓矢という持物が、この尊格を規定する。ヒンドゥーの愛神カーマデーヴァの花の弓矢と同じであり、懐柔——人や状況を魅了して従わせる——という密教の四種の事業(息災・増益・懐柔・調伏)のうち、懐柔を司る。
赤い色は懐柔の色であり、この尊格は密教における「愛と魅了の力」の体現である。
修法
クルクッラーの修法は、他者を魅了する、人間関係を調える、影響力を得る、といった目的で行われた。チベットの伝承には、この修法によって王を魅了して仏教に帰依させた話がある。
蓮華部(阿弥陀の部族)に属し、赤ターラーの一形態とされる。
関わる神格・伝承
ターラーの一形態。カーマデーヴァと図像を共有する。ヒンドゥーのトリプラスンダリー、ラリターとの関係が論じられる。
ネワール仏教では、クルクッラーはネパールの守護女神の一つとして祀られる。
文化的足跡
チベット仏教の四事業のうち、懐柔を担う本尊として、今日も修法が行われている。
なおチベット仏教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその尊格の伝承と図像に関する学術的な整理である。