イーナコス
イナコス · イーナコス · Inachus
アルゴスの最初の王にして河神。ヘーラーとポセイドーンのアルゴス領有争いでヘーラーに与えたため、怒ったポセイドーンに川を涸らされた。娘イーオーはゼウスに愛され牝牛に変えられた。アルゴス王家の祖。
解説
概要
イーナコス(Ἴναχος / Inachos)は、アルゴリス地方を流れるイーナコス川の神で、アルゴスの最初の王とされる。河神でありながら王家の祖でもあり、その娘イーオーと子ポローネウスを通じて、アルゴスの王統はこの川から始まる。
神話・物語
多くの資料は、イーナコスをオーケアノスとテーテュースの子、すなわち数多い河神の一柱とする。
アルゴスの地をめぐってヘーラーとポセイドーンが争ったとき、イーナコスはケーピーソス、アステリオーンとともに裁き手となり、土地をヘーラーのものと定めた。怒ったポセイドーンは川の水を涸らしたため、アルゴスの川は雨の後にしか流れなくなったという(パウサニアース2.15.5)。夏に水の絶えるこの地方の川の様子を説明する話である。
娘イーオーはゼウスに愛され、ヘーラーの目を逃れるため牝牛に変えられた。アイスキュロス『縛られたプロメーテウス』では、牝牛の姿で流浪するイーオーが、父の家から追い出された次第を語る。オウィディウス『変身物語』第1巻では、娘と知らずに牝牛を撫でるイーナコスに、イーオーが蹄で砂に自分の名を書いて知らせ、父が嘆く場面がある。
ただしイーオーの父については異説が多く、アルゴスの王イーアソスやペイレーンの娘とする伝えもある(イーアソスの項を参照)。
図像と象徴
本サイトの主画像は、ヴィクトル・ヤンセンス(1658〜1736)の《父に認められるイーオー》で、オウィディウスの一場面にもとづく。
河神としては、硬貨や浮彫で角のある男、あるいは水瓶にもたれて横たわる髭の男の型で表されるのが通例である。
系譜と関係
父はオーケアノス、母はテーテュース。妻はオーケアニスのメリアー。子はポローネウス、アイギアレウス、娘イーオー。ポローネウスはアルゴスで初めて人々を集めて町を作った者とされ、イーオーの子孫からはダナオス、ペルセウス、ヘーラクレースが出る。
文化的足跡
ローマの詩人たちは、アルゴスとその地の人々を「イーナコスの」という形容で呼んだ(ウェルギリウス『アエネーイス』7巻の「イーナコスのアルゴス」など)。イーナコス川はいまもアルゴリス平野を流れ、夏にはほとんど水が絶える。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。