フィデース
フィデス · ボナ・フィデース · Fides
ローマの信義と誠実の女神で、ローマ本来の徳が神格化されたもの。ヌマ王が祭祀を定め、神官は白布で右手を覆って犠牲を捧げた。神殿には外国との条約が掲げられ、握手の図像で表される。「ボナ・フィデース」は法律用語として残る。
解説
概要
フィデース(Fides)は、ローマで信義と誠実を神格化した女神である。正式にはフィデース・プブリカ・ポプリー・ロマーニー(ローマ国民の公の信義)と呼ばれた。約束を守ること、契約の誠実さ、同盟国への信義、兵士の忠誠までが、この女神の領分に含まれた。キケロー『義務について』は、言われたことがなされる(フィアト)ことからフィデースと呼ぶのだという語源解釈を記している。
祭祀
リーウィウス(1.21)によれば、フィデースの祭祀を定めたのは二代目の王ヌマである。三人の大神官(フラーメン)は、幌のついた車でフィデースの聖所に赴き、右手の指先まで白い布で覆って犠牲を捧げた。約束を交わし誓う手である右手を、汚れなく保つための作法と解される。
カピトリーヌスの丘のユーピテル神殿のそばにフィデースの神殿があり、前250年代にアウルス・アティリウス・カラティヌスが奉献し、前115年にマルクス・アエミリウス・スカウルスが修復した。神殿の壁には外国との条約を刻んだ青銅板が掲げられ、元老院がここで会議を開くこともあった。前133年、ティベリウス・グラックスをめぐって騒然とした日に元老院が集まったのも、このフィデースの神殿である。
図像と象徴
本サイトの主画像は、帝政期のドゥポンディウス貨幣(RIC 1210)の裏面に表されたフィデースである。貨幣のフィデースは、果物を盛った籠や穀物の穂を持つ女として表されるほか、握り合わされた二本の右手で示される。この握手の図柄は、内乱の時代から帝政期にかけて、軍の忠誠(フィデース・エクセルキトゥウム)を訴える貨幣に繰り返し刻まれた。
関わる神格・伝承
誓約の神サンクス(ディウス・フィディウス)と名も職能も近い。ピエタース、ホノース、ウィルトゥースと並ぶ、ローマの徳目の神格の一つである。
文化的足跡
「ボナ・フィデース」(善意、誠実)は、ローマ法の契約の原則として受け継がれ、今日も法律用語として各国語に残っている。