フィデース
フィデス · ボナ・フィデース · Fides
ローマの信義と誠実の女神で、ローマ本来の徳が神格化されたもの。ヌマ王が祭祀を定め、神官は白布で右手を覆って犠牲を捧げた。神殿には外国との条約が掲げられ、握手の図像で表される。「ボナ・フィデース」は法律用語として残る。
解説
概要
古代ローマの宗教において、フィデース(Fides)は信頼、忠実、誠実(ボナ・フィデース)の女神にして体現であった。フィデースは、儀礼と神殿によって神格として育まれるべきローマ本来の徳の一つであった。
職能
フィデースはローマ社会において多面的な概念で、理想の集合であると同時に女神であった。「名誉と信用に要求されるすべて——婚姻における貞節から、契約上の取決め、兵士がローマに負う義務まで」を体現した。
伝えによれば、ヌマ王がフィデースの祭祀を定めた。神官は白い布で右手を覆ってフィデースに犠牲を捧げた。右手——握手し誓う手——が、この女神の象徴である。
神殿
カピトリーヌスの丘にフィデースの神殿があり、前254年頃に建てられた。ここに外国との条約が掲げられ、条約の女神としての性格が示された。元老院はしばしばこの神殿で会議を開いた。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ドゥポンディウス貨幣(RIC 1210)の裏面である。フィデースを描く。
貨幣においてフィデースは、果物の籠と穀物の穂を持つ女、あるいは握り合わされた二本の右手(デクストラールム・ユンクティオー)として表される。握手の図像は、帝政期の貨幣で兵士の忠誠(フィデース・ミーリトゥム)を示すために多用された。
抽象的な徳が神殿と神官を持つ女神になるという構造が、この女神を規定する。ローマ人は徳を人格化して祀ることで、社会の規範に宗教的な保証を与えた。
関わる神格・伝承
誓約の神サンクス(ディウス・フィディウス)と対をなす。ピエタース、ホノース、ウィルトゥースと並ぶ徳の擬人神。
文化的足跡
「ボナ・フィデース」(善意、誠実)は、今日も法律用語として各国語に残る。ラテン語の女神の名が、契約法の基本概念になった。