ダニールとアクハト
ダニール · アクハト · プガト
ウガリットの文化英雄と、女神アナトに弓を巡って殺されたその子の物語。姉プガトが男装して復讐に向かうところで粘土板は途切れる。旧約聖書『エゼキエル書』が挙げる義人ダニエルは、このダニールを指すとする説が有力である。
解説
概要
ダニール(ウガリット語 DNỈL、「エールは裁く」)は、アクハトの父であり、シリアのウガリット(現在のラス・シャムラ)の14世紀の不完全なウガリットの文書に現れる文化英雄である。
なお本サイトの分類では、フェニキア/ウガリットの体系に含めて扱う。父子の物語であるため群記事とする。
アクハト物語
子を求める。 ダニールは子がなく、七日のあいだ神殿に籠って祈った。
コタラトが七日その家に留まり、妻が身ごもった。生まれたのがアクハトである。
弓。 工匠神コシャル・ハシスが、ダニールのもとを訪れ、見事な弓を作って与えた。ダニールはこれを子アクハトに授けた。
アナトの求め。 女神アナトがこの弓を欲し、アクハトに求めた。
金と銀を、次いで不死を申し出た。
拒絶。 アクハトは拒み、さらに「弓は男のもの、女に何ができようか」と言った。
殺害。 怒ったアナトは、従者ヤトパンを鷲に変えてアクハトを襲わせ、殺した。
旱魃。 アクハトの死とともに、大地は実らなくなった。
姉の復讐。 姉プガトは男の装いをして武器を隠し、ヤトパンのもとへ赴いた。酒を勧め、酔わせた。
中断。 粘土板はここで途切れており、結末は分からない。
失われた結末
『アクハト物語』は、ウガリット文学の三大作品(『バアル神話』『キルタ物語』『アクハト物語』)の一つである。
完結しない。 いずれも粘土板の欠損により、完全な形では残らない。
推定。 アクハトが蘇るという結末が推定されるが、確証はない。
女が復讐する。 姉プガトが男装して敵に向かうという場面は、古代近東の文学において稀である。
旧約聖書のダニエル
『エゼキエル書』14章と28章に、「ノア、ダニエル、ヨブ」という三人の義人が挙げられる。
別人。 このダニエルは、『ダニエル書』の主人公ではなく、ウガリットのダニールを指すとする説が有力である。
寡婦と孤児を裁く。 ウガリットの詩は、ダニールを「寡婦の訴えを裁き、孤児の訴えを裁く」者と描く。
エゼキエルが義人の代表として挙げるのに合致する。
共有された伝承。 イスラエル以前のカナンの英雄が、旧約聖書に名を留めている。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、アクハト叙事詩の粘土板である(ルーヴル美術館蔵 AO17323)。
関わる神格・伝承
コタラトの祈願で子を得た。アナトに子を殺された。娘プガト。
文化的足跡
『アクハト物語』は、古代近東文学の代表作としてしばしば英訳・和訳される。