シワコアトル
シワコアトル · キラストリ · 蛇の女
「蛇の女」を意味するアステカの母性と豊穣の女神。産婆と発汗小屋に結びつき、ケツァルコアトルが人類を創るのを骨を挽いて助けた。征服前に夜ごと街路で泣き叫んだという前兆が「泣く女」の伝説の起源の一つとされる。
解説
概要
シワコアトル(Cihuācōātl)は、アステカ神話の母性と出産にかかわる女神である。名はナワトル語で「蛇の女」を意味する。産婆や、出産の前後に用いられた蒸し風呂(テマスカル)と結びつき、キラストリの名でも呼ばれた。チャルコ地方の人々や、クルワカンの町の守護女神とされた。
神話・物語
人類の起源を語る神話では、ケツァルコアトルが冥界から持ち帰った前の時代の人々の骨を、シワコアトルが挽いて粉にし、そこにケツァルコアトルが自らの血を注いで今の人間が造られたとされる。
アステカの滅亡を告げた前兆の話にも、この女神は現れる。サアグンの『フィレンツェ絵文書』第12巻は、スペイン人の到来に先立つ不吉な前兆の一つとして、夜ごと女の声が「わが子らよ、もう去らねばならない、どこへ連れて行けばよいのか」と泣き叫んで歩いたことを記す。ドミニコ会士ドゥランは、夜に泣き声をあげて歩く女をシワコアトルと結びつけている。
図像と象徴
頭に蛇を戴き、あるいは蛇の顎から顔をのぞかせる女として表され、口を開いて歯をむき、鉤爪のある手をもつ恐ろしい姿の石像が残る。出産で命を落とした女たちの霊シワテテオと同じく、出産を戦いになぞらえる観念と結びついた姿とみられる。本サイトの主画像は、メキシコ国立人類学博物館が所蔵するシワコアトル像である。
系譜と関係
キラストリと同一視される。コアトリクエ、トシとともに大地と母性の女神の系列をなす。
「シワコアトル」は、テノチティトランで王(トラトアニ)に次ぐ最高位の官職の名でもあった。内政と祭祀を統べたこの職にはもっぱら男性が就き、15世紀のトラカエレルはこの地位にあってアステカの拡大を主導したことで知られる。
文化的足跡
子を失った女の霊が夜にさまよい泣くというメキシコの民間伝承「ラ・ヨローナ」(泣く女)の源流の一つに、この前兆の話を挙げる説がある。ただしラ・ヨローナの物語にはスペインから来た要素も混じっており、直接の連続性は確かめられていない。
なおメソアメリカの先住民の伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。