カル
カルー · calu
エトルリアの狼の冥界神。名は「暗いもの」を意味し、冥界そのものも指した。アイタの狼頭巾はこの神から受け継がれたとされる。
解説
概要
カル(エトルリア語 calu)は、エトルリア神話の冥界の神である。名は「暗い、闇」を意味するとされ、ギリシアのハーデースと同じく、神の名がそのまま冥界そのものを指す語としても用いられた。狼にまつわる属性——狼のような姿、あるいは狼の頭皮をかぶった人の姿——によって同定される。
エトルリアの冥界神としてよく知られるのはアイタだが、そのアイタが前4世紀にギリシアの名と像をかぶせて成立したのに対し、カルはそれ以前の層に属する。アイタが狼の頭巾をかぶって描かれるのは、この古い神から受け継いだ属性である。
神話・物語
物語は伝わらない。この神について言えるのは、名の意味と、狼という属性、そしてそれが結びつく祭祀の圏である。
狼を標識とする冥界の神という組み合わせは、イタリア中部に広く見られる。ローマのルペルカーリア祭、そしてファリスキーのヒルピー・ソーラーニー——「ソーラーヌスの狼たち」、ヒルプスはサビニ語で狼を指す——の祭祀と、カルの図像には共通する要素があると指摘されている。ソラクテ山の洞穴で狼を追った牧人が噴気に倒れたというセルウィウスの由来譚も、この圏に属する。狼が死者の世界と人の世界を行き来する獣として捉えられていたことになる。
近年の研究は、カルを、火と地下をあわせ持つ神シュリの添え名の一つとし、マントゥス、アイタ、ウェーヨウィスとともに一柱の神の別名として束ねる。碑文と図像からの再構成であり、古代の資料がそう述べているわけではない。
図像と象徴
狼である。狼そのものの姿で表されるか、狼の頭皮を帽子のようにかぶった人の姿で表される。この頭巾がアイタの図像に移り、ギリシアのハーデース像には存在しない特徴として残った。
カルの名を刻んだ確実な作例はきわめて乏しく、この神を単独で描いたと同定できる図像は知られていない。本項に主画像を掲げていないのは、この事情による。狼頭巾をかぶった冥界の主の図は、いずれもアイタの名で銘記されている。
系譜と関係
系譜は伝わらない。位置としては、アイタに先立つ冥界の主にあたる。名の重なりから、ソーラーヌス(シュリ)やマントゥスと同じ神の別の顔と見る立場があるが、確証はない。
古い神が新しい名に置き換えられ、属性だけが持ち越されるという経過は、エトルリアの宗教にしばしば見られる。カルはその典型であり、名は失われ、狼の頭巾だけが残った。
文化的足跡
狼と死を結ぶイタリア中部の観念は、ローマのルペルカーリア祭や、狼に育てられた双子というローマ建国伝説にまで及ぶ。カル自身の名は忘れられたが、その圏にあった祭祀のいくつかは帝政期まで続いた。ヒルピー・ソーラーニーの火渡りは、プリニウスが博物誌に驚異として書き留めている。