ユム・カシュ
ユム・カシュ · 森の主 · Yum Kaax
「森の主」を意味するマヤの野生の植物と動物の神。狩人の守護神であり、焼畑の前に許しを乞う対象であった。19世紀以来トウモロコシの神と同一視されてきたが、今日では耕作地ではなく未開の森を司る別の神格とされる。
解説
概要
ユム・カシュ(ユカテコ・マヤ語で「森の主」)は、マヤの野生の植物と動物の神である。
しばしばトウモロコシの神と同一視されるが、両者は本来別の神格であるとする見方が有力である。ユム・カシュは耕作されていない土地——森——を司り、トウモロコシの神は耕作地を司る。
古典期の神名表記では「神E」と呼ばれる若い神が、トウモロコシの神にあたる。
職能
森の主として、狩人の守護神である。狩りに出る者はユム・カシュに祈り、獲物を得たのちには供物を捧げる。
森を焼いて畑を作る焼畑農耕において、ユム・カシュの領域を侵すことになるため、許しを乞う儀礼が行われた。
野生と耕作の境界を管理する神である。人が森から取るとき、その主に断らねばならない。
トウモロコシの神との混同
19世紀から20世紀初頭の研究において、ユム・カシュはしばしばトウモロコシの神と同一視された。「カシュ」を「トウモロコシ畑」と解したためである。
しかし今日では、「カシュ」は「森」あるいは「未開の地」を指す語であり、耕作地ではないとされる。
同一視の誤りが長く定着した例である。ユカテコ・マヤの民族誌において、ユム・カシュは今日も森の主として語られる。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
古典期マヤの「神E」——若く美しいトウモロコシの神——の図像が、しばしばユム・カシュのものとして誤って掲載されてきた。本サイトはこの混同を避けるため、主画像を掲げない。
関わる神格・伝承
森と野生の動植物の主。フン・フナフプー(トウモロコシの神)とは別の神格である。
メソアメリカ各地に、森の主あるいは動物の主とされる神格がある。狩猟採集の記憶を保つ信仰である。
文化的足跡
ユカタン半島のマヤ農民のあいだで、森に入る前にその主に断る習俗は今日も残る。