ツィツィミトル
ツィツィミトル · ツィツィミメ · Tzitzimitl
星と結びついたアステカの天の女神格の一群。日食や52年周期の終わりに天から降って人を食うと恐れられる一方、助産婦や産婦が祀る女性の神格でもあった。マヤウェルの祖母もその一人とされる。
解説
概要
ツィツィミトル(Tzitzimitl、複数形ツィツィミメ)は、アステカ神話で星と結びついた天の女神格の一群である。ふだんは天にあって、太陽が光を失うとき地上に降り、人を食うと恐れられた。その一方で、助産婦や産婦が祀る、豊穣と出産に関わる女性の神格でもあった。
神話・物語
日食のとき太陽のまわりに現れる星々は、太陽を襲うツィツィミメと見られた。修道士サアグンの記録によれば、日食が続けば闇が永遠に続き、ツィツィミメが降りてきて人を食うと人々は恐れた。
52年の暦の周期が終わる夜には、新しい火をおこす儀礼が営まれた。火がおこらなければ太陽は滅び、ツィツィミメが降りて最後の人間を食い尽くすとされた。その夜、身ごもった女はマゲイの葉の面をつけられて穀倉に閉じ込められた。獣に変じて人を食うことを恐れたためである。
植民地時代の文書『メキシコ人の歴史』は、女神マヤウェルの祖母をツィツィミトルとする。ケツァルコアトルが天からマヤウェルを連れ去ると、祖母とツィツィミメたちはこれを追い、一本の木に化した二人を見つけて、マヤウェルの枝を引き裂いて食べた。ケツァルコアトルが埋めた骨から、マゲイ(リュウゼツラン)が生えたという。
図像と象徴
骸骨の顔に鉤爪の手足をもち、髑髏と交差した骨の文様の裳をまとう女の姿で描かれる。主画像は『マリアベッキアーノ絵文書』のツィツィミトルである。
系譜と関係
イツパパロトルはその首領とされ、ツィツィミメの住む楽園タモアンチャンを治めた。お産で死んだ女の霊シワテテオと結びつけられる。
文化的足跡
征服後のスペイン語の記録は、ツィツィミメを「悪魔」と訳した。美術史家セシリア・クラインは、本来は女性の守護者であり人類の祖でありながら、宇宙が不安定になる時には危険な存在になるという二面性をもっていたと論じている。
なおメソアメリカの先住民の伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。