トゥイスト
トゥイスコ · Tuisto · Tuisco
タキトゥス『ゲルマーニア』が伝えるゲルマン諸族の神的な祖先。大地から生まれ、名は「二重の者」=両性具有を意味するとされる。北欧のユミル、インドのヤマと同じく、原初の存在が「双子」と呼ばれる印欧の型に属する。
解説
概要
トゥイスト(Tuisto、写本によってはトゥイスコ)は、ローマの歴史家タキトゥスの『ゲルマーニア』(後98年)が伝える、ゲルマン諸族の神的な祖先である。大地から生まれた神とされ、その子マンヌスと孫たちを経て、ゲルマンの諸部族が出たと語られる。北欧神話そのものの神ではないが、ゲルマン語圏の創世伝承を伝える最古の記録として、本サイトでは北欧神話の体系に置いている。
神話・物語
『ゲルマーニア』第2章によれば、ゲルマン人は、彼らの唯一の歴史の記録である古い歌のなかで、大地から生まれた神トゥイストと、その子マンヌスを民族の始祖として讃えていた。マンヌスには三人の息子があり、その名から、海に近いインガエウォネス、内陸のヘルミノネス、残りのイストゥアエウォネスの三つの部族群が名づけられたという。タキトゥスが伝えるのはこれだけで、ゲルマン人自身による記録は残っていない。
名は、ゲルマン祖語で「二」「二重」を意味する *twis- に由来し、「二重の者」、すなわち両性具有の存在を表すとする説が有力である。大地から生まれ、単独で子孫を生むという設定もこれに合う。
図像と象徴
古代の図像は知られていない。本サイトの主画像は、1543年にニュルンベルクで刊行された木版の刷り物(大英博物館蔵)で、ブルクハルト・ヴァルディスの詩とともに、白い長い髭と外套をまとった立ち姿の「トゥイスコン」を描く。ゲルマン人の古王を順に描いた連作の第一図である。
系譜と関係
子はマンヌス。孫からインガエウォネス、ヘルミノネス、イストゥアエウォネスの三部族群が出た。
大地から生まれた祖、その子、三人の孫という三代の構造は、北欧神話のブーリ、ボル、オーディンら三兄弟の系譜と比べられてきた。北欧の原初の巨人ユミルも単独で子を生んだとされ、その名は印欧祖語の *yemo-(「双子」)に遡ると考えられている。インドのヤマ、イランのイマも同じ語源とされ、原初の存在を「二重の者」「双子」と呼ぶ発想の比較の対象となっている。
文化的足跡
1498年、イタリアの修道士アンニウス・ダ・ヴィテルボは、古代バビロニアの著述家ベーロッソスの著作と称する偽書を刊行し、そのなかでトゥイスコンをノアの子とし、ゲルマンの最初の王とした。16世紀のドイツの人文主義者たちはこれを受け入れ、バイエルンの年代記作者アヴェンティヌスらがトゥイスコンに始まるドイツの王統を書き、その名を「ドイツ」(トイチュ)の語源とみなした。偽書にもとづくこの系譜は今日では否定されているが、近世のドイツ民族の起源をめぐる言説に長く影響を残した。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。