スットゥング
スットゥングル · ストゥング · Suttungr
ギリングの子。両親を殺したドヴェルグから詩の蜜酒を取り上げ、フニトビョルグの山中に隠して娘グンロズに守らせたが、オーディンに奪われた。
解説
概要
スットゥング(古ノルド語 Suttungr)は、北欧神話のヨトゥンである。ギリングの子にあたる。
両親を殺したドヴェルグから詩の蜜酒を取り上げ、これをフニトビョルグの山中に隠して、娘グンロズに守らせた。
神話・物語
両親を探したスットゥングは、これを殺したドヴェルグの兄弟フィヤラルとガラルを見つけ出す。二人と、ギリング殺しに加わった他のドヴェルグを、満ち潮に沈む岩に縛りつけた。
命乞いをする彼らは、代償として魔法の蜜酒——賢者クヴァシルの血から醸された詩の蜜酒——を差し出す。スットゥングはこれを受け取り、山の中心に隠して娘に守らせた。
のちにオーディンが奪いに来る。オーディンはスットゥングの兄弟バウギのもとで一夏働き、報酬として蜜酒を一口求めたが、スットゥングは拒んだ。バウギが山に穴を穿ち、オーディンは蛇に姿を変えて中へ滑り込む——このときの名がベルヴェルク(「悪しき業を為す者」)である。
内では娘グンロズが番をしていた。オーディンは三夜をともに過ごす代わりに三口を飲むことを承知させ、三つの器の蜜酒をすべて飲み干した。そして鷲に姿を変えて逃げる。
スットゥングもまた鷲となって追った。オーディンはかろうじてアースガルズへ帰り着き、鳥のやり方でアース神族の用意した大きな器へ蜜酒を吐き出す。ただしスットゥングが迫っていたため、一部は後ろから漏らさざるを得なかった。この蜜酒はスットゥングの顔にかかって彼を惑わせ、地に落ちた。それが、賢い詩人を作る蜜酒ではなく、人を酔わせるだけの酒になったという。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ルイ・ユアールの挿絵《巨人スットゥングとドヴェルグたち》(1900年)である。満ち潮の岩に縛られたドヴェルグたちが命乞いをする場面を描く。
物語における位置は、正当な報復者である。両親を殺した者から償いを取り立て、得たものを守る。にもかかわらず、それを奪われる側に回る。
詩の蜜酒が三度所有者を変えることも見逃せない。クヴァシルの血 → ドヴェルグ → スットゥング → オーディン。そのつど暴力か欺きが介在する。詩というものが、正当な取得によってではなく奪取によって人の世に届いたという構成である。
関わる神格・伝承
父はギリング、娘はグンロズ、兄弟はバウギ。奪ったのはオーディン。
日本語圏では、この物語はオーディンの側から語られるのが常である。ただしスットゥングの側から見れば、両親の仇から正当に得た財を、働き手を装った侵入者に盗まれた話にほかならない。
文化的足跡
北欧の詩において、詩そのものを指すケニングは数多く、その多くがこの物語に由来する。「スットゥングの蜜酒」「オーディンの獲物」——詩人が自らの技を呼ぶとき、繰り返しこの一連の出来事が参照された。
漏れ落ちた分が「凡庸な詩人の取り分」になったという末尾の一節は、北欧の詩人たちの自己認識をよく示している。詩には二種類あり、その差は神話上の一場面によって説明されている。