ギリング
ギリングル · ギッリング · Gilling
スットゥングの父にあたるヨトゥン。ドヴェルグのフィヤラルとガラルに妻ともども殺され、その償いとして詩の蜜酒が子スットゥングに渡った。
解説
概要
ギリング(古ノルド語 Gillingr)は、北欧神話のヨトゥンである。スットゥングの父にあたる。
妻とともにドヴェルグのフィヤラルとガラルに殺された。その報復として、子スットゥングが二人を責め立て、詩の蜜酒を得ることになる。
名は「叫ぶ者」と訳される。古ノルド語の動詞ギャッラ(gjalla、「叫ぶ、わめく」)に連なる。
神話・物語
『詩語法』が伝えるところはこうである。
ドヴェルグのフィヤラルとガラルは、賢者クヴァシルを殺してその血から詩の蜜酒を醸していた。次にこの二人は、ギリングを舟に乗せて沖へ出し、舟を転覆させて溺れさせる。
知らせを聞いた妻は深く嘆き、大声で泣き続けた。その泣き声に嫌気がさしたガラルは、ついに臼を頭上に落として彼女を殺す。
両親を失ったスットゥングは二人を責め、命乞いの代償として詩の蜜酒を得た。蜜酒はフニトビョルグの山中に隠され、娘グンロズがこれを守ることになる。のちにオーディンがこれを奪う。
10世紀のスカルド、エイヴィンド・スカルダスピッリルの詩には、詩の蜜酒を「ギリングの償い」と呼ぶ表現がある。
図像と象徴
古い図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
象徴として押さえておきたいのは、この人物が償いの起点であるという点である。詩の蜜酒は、殺人の代償として支払われた。北欧の法において、殺人には賠償(ヴェルギルド)が課される。詩そのものが賠償として動くという設定が、この物語の骨格をなしている。
「ギリングの償い」というケニングは、その関係を一語で示す。詩を作ることは、殺された者への支払いに連なる行為である。
関わる神格・伝承
子はスットゥング、孫娘はグンロズ。殺したのはフィヤラルとガラル。
詩の蜜酒をめぐる物語は、クヴァシルの死から始まり、ギリング夫妻の死を経て、オーディンの奪取に至る。三度の殺害と一度の奪取が連なる構成である。
文化的足跡
日本語圏では、詩の蜜酒の物語はクヴァシルとオーディンを中心に紹介される。途中で殺されるヨトゥンの夫妻まで語られることは少ない。
しかし物語の論理からすれば、この夫婦の死こそが蜜酒をドヴェルグの手から離れさせ、ヨトゥンの山中へ移す契機である。オーディンが山へ赴くことになるのは、この殺害のためにほかならない。